CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

「ココロ」の経済学:行動経済学から読み解く人間の不思議

 人間は必ずしも合理的ではない。効用というのも不思議なもので、効用が本人にとって高いから価格が高くても買うことがあるといっても、効用は測れない。たとえば、リンゴとミカンのどちらを買うか、予算的にどちらかしか買えない場合を除いては、価格でなく効用が選択に影響する。とはいえ、リンゴとミカンの効用は栄養価なのか、健康への効果(これも曖昧)なのか、味(好み)なのか、よく分からない世界だ。

 今回、さらに「ココロ」の不思議さを感じたのは、「内的動機」というもの。ここで紹介されているのは、『夢中になっているサルに褒美を与えると、サルのパズルの回答率が下がる』、そして『人間の場合も、金銭的報酬を与えると、パズルの正答率が下がる同じ現象が起こる』ということ。好きでやっているうちは打ち込めるのに、報酬が与えられると打ち込めなくなるのだろうか。

 オランダのトイレでハエの絵を描いたら使い方が向上したとか、この「ココロ」の癖を分析すると人の行動を変える効果も得られるらしい。やり方次第でコストをかけずに高い効果が得られるというのは魅力的だけど、人の行動とそこに影響を与える事象を分析するというのは難しそう。とりあえず興味深いネタが沢山散りばめられていて全編おもしろかったのだけど、使いこなすというのは別の世界なんだろう。

「ココロ」の経済学: 行動経済学から読み解く人間のふしぎ (ちくま新書1228)

「ココロ」の経済学: 行動経済学から読み解く人間のふしぎ (ちくま新書1228)

 

 

9割の人間は行動経済学のカモである ―非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす

9割の人間は行動経済学のカモである ―非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす

 

 

アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男/The People vs. Fritz Bauer

eichmann-vs-bauer.com

 本作は、第二次世界大戦後の戦争犯罪者に関する捜査を主導する検事長フリッツ・バウアーがスポットライトを浴びる。正義のため、信念のため、捜査を止めようとする組織に屈することなく身柄を確保し、裁判を行うために動き続ける。単純に復讐のためではないので、心情としては共感するものの、自分に同じようなことができるかというと難しいかもしれないと思ってしまった。そして、友人が戦争犯罪者であって、自分に権力があった場合に、自分がどのように振舞うかということを考えると、フリッツ・バウアーを妨害する立場の心情も少しわかる。特に、具体的な自分の周りの人を想像してしまうと。だから、"the Banality of Evil" (悪の凡庸さ)という話になるのだろうけど。

 

 第二次世界大戦を総括する映画がここのところ多い印象だけど、戦時中のものに比べて戦後処理(アウシュビッツ裁判関係)を立て続けに観ているような気がする。戦争犯罪者を追求しようとする若い検察官を主人公に、戦争犯罪者の実態が実は平凡な市民で、誰もが犯罪者になり得る可能性を描いた『顔のないヒトラーたち』顔のないヒトラーたち/Labyrinth of Lies - CoffeeAndBooks's 読書日記アイヒマンが逮捕され、開廷される歴史的な裁判を世界に配信するチームに焦点を当てた『アイヒマン・ショー』アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち/The Eichmann Show - CoffeeAndBooks's 読書日記。収容所に収容されていたユダヤ人女性の再生の物語である『フェニックス』あの日のように抱きしめて/the phoenix - CoffeeAndBooks's 読書日記

 それから、第二次世界大戦を扱う映画のうち、ドイツに関連するものは同性愛についても触れていることが増えているような気がする。本作でも、フリッツ・バウアーと部下がそれを理由に失脚させられようとしたり、脅迫されたり。『手紙は憶えている手紙は憶えている/REMEMBER - CoffeeAndBooks's 読書日記でも、同性愛を理由に収容所に収容されていた人が登場していた。やっぱり、昨今の多様性への認識が高まったことによるものなのだろうか。

 

 

 

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事総長

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事総長

 

 

日本電産永守重信社長からのファックス42枚

 当たり前のことをやる、この大切さ。よくPEファンドの人たちと話すと出てくるのが、技術力はあるのに、営業面で当たり前のことができない会社が多いということ。依頼に対して、信頼や実績がないうちは速さで勝負するのもひとつ。市場価格を前提に価格を下げる努力も同様。50社以上のM&Aですべて1年以内に黒字化するというのは、ものすごいことだけど、当たり前を追求すればこんなすごいことが実現できる。

 本書では、とにかくやるべきこと、考える前提にするべきこと、というのが紹介されている。ちょっとだけ在籍した人が見聞きした例ではなく、経営側の立場で参画されていた方が厳選した永守氏の哲学だけに参考になる。動く、考える、(他人ではなく)自分に不満を持つ。誰にも等しく与えられている資産である時間を最大限に有効に使う。スピードを追求する。どれも、本人のコミットメントだけでできること。経営者だけに必要な心構えではなくて、一社員も使える心構え。

 ちょっとタイトルがインチキ自己啓発風なのが残念ではあるけれど。

日本電産永守重信社長からのファクス42枚

日本電産永守重信社長からのファクス42枚

 
「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる

「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる

 

 

ルポ 児童相談所:一時保護所から考える子ども支援

 私個人も児童養護施設に暮らす子どもへの支援ボランティアに参加しているので、とても関心の高い領域ではあるけれど、児童相談所については考えたことがなかったので衝撃を受けた。児童養護施設で暮らす子どもは、将来施設の職員になりたいと言う子が多くいるのに、児童相談所で働きたいという子どもはいない。多くの子どもが二度と帰りたくないと言うらしい。

 とはいえ、相談所で働く職員が悪い人間ということではない。業務量も増加し続け、日々、何とかオペレーションをこなすしかなく、そのためには子どもの気持ちに寄り添う努力をするよりも問題を起こさないでやり過ごしたいという気持ちになることはよくわかる。悲しいことではあるけれど。生活保護ケースワーカーは一人当たりの件数が決まっているというのに、児童養護にはないというのも衝撃。

 背景として、問題のある家庭が増えた又は顕在化しやすくなったということで、ケース数自体の増加もあるけれど、相談所での滞留日数の増加もあるらしい。これを減少させる取組に成功している自治体もあるようなので、うまく横展開されてほしい。

 

ルポ 児童相談所: 一時保護所から考える子ども支援 (ちくま新書1233)

ルポ 児童相談所: 一時保護所から考える子ども支援 (ちくま新書1233)

 
働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

働きながら、社会を変える。――ビジネスパーソン「子どもの貧困」に挑む

 
走れ! 児童相談所 発達障害、児童虐待、非行と向き合う、新人所員の成長物語

走れ! 児童相談所 発達障害、児童虐待、非行と向き合う、新人所員の成長物語

 

 

マンガでわかる リアル中国人

 近くて遠い国、中国。個人的には、中国人は日本人に見た目も似ているし、漢字を使って箸を使うなど共通点も多いのに、やっぱり考え方が違う、ということで、西洋人と分かり合えないときよりも残念な気持ちが強くなって、妙な距離を感じてしまうように思う。たとえば、この『マンガでわかる リアル中国人』で書かれている例だと、縁起を担いだり、縁起物に喜んだりという行動様式は似ているけれど、何を縁起が良いと思うかは違う。それから、手で数字を表すサインも途中まで日本と同じなのに、途中から違う。

 このマンガでは、旅行者である中国人と日本に在住の中国人、そして日本人が交流しながら文化の差異を紹介する形式で、とても面白い。でも、違いを認識せずにいきなり接触すると、勘違いしてイライラしてしまうことも多いのかもしれないと反省。違う文化と考え方を持つ人たちであることを認識して、比較を楽しみたいところ。

 なお、本書は簡単な会話がピンインと一緒に紹介されているので、これだけで中国語の勉強にはならないけれど、同僚や友人に一言でも話しかけたいときや自分が観光地でお店でもやっていたら役立ちそう。

マンガでわかる リアル中国人

マンガでわかる リアル中国人

 

  

  

PR視点のインバウンド戦略?訪日中国人の興味は「爆買い」から「体験」、「都市」から「地方」へ

PR視点のインバウンド戦略?訪日中国人の興味は「爆買い」から「体験」、「都市」から「地方」へ

 

 

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である

 あらゆるビジネスにサイエンスやテクノロジーが絡んでくる時代、サイエンスやテクノロジーを誰もが避けられなくなる。そして、ビジネスの世界にもう一つ進出しているものがデザイン戦略に代表されるArt。テクノロジーとArtは密接につながっている。ということで、STEAM=STEM (Science, Technology, Engineering, Mathmatics) + A (Art)が重要になると本書は主張する。現存する職業の半分はAIに置き換えられると言われるなかで、AIに使われる側でなく使う側に回ろうと思ったら、少なくともSTEMの理解が必要。『残酷な10年後に備えて今すぐ読みたい本』として、今起きていることや近い将来を予測するうえで参考になる書籍のガイドもあるので、とても親切な一冊だった。

 現時点ではSTEAMは教養レベルには落ちていないので、ある程度新しい物好きであればビジネスの世界で優位に立てるのではないかという気になった。新しい物好きの条件は、どうやら「Perfume」「BABYMETAL」「OK Go」。音楽としてではなく、プロジェクションマッピングを含めた総合アートとして楽しむ。音楽だけだとつい昔はよかったと思ってしまうけれど、YouTubeで見るとやっぱり面白い。その昔、マイケル・ジャクソンが自身のプロモーションビデオを"short film"と呼んで、他のパフォーマーとは圧倒的に異なる世界を見せた時の衝撃に近いかもしれない。なお、ゲームの世界では、ツムツムやパズドラやポケモンGO止まりでこれらをゲームだと思っていてはだめらしい。やっぱり手軽なところだけ試したのでは最先端の技術には触れられない様子。

 一方で、イマジネーション、クリエイティビティ、SFの本質という視点も面白くて、古典的なSFが与えてくれる示唆についても触れられている。星新一ジュール・ヴェルヌを読み返すのも良いかもしれない。しかし、安部勤也の書籍か何かで昔の知識人がたった数冊の書物を読むにも人生が短すぎると嘆いていた話を読んだ記憶があるけれど、そんな時代に比べると21世紀はインプットすることが多いな。

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)
 

 

 

具体と抽象

 部下がもう少し考えてくれたら、というのは多くの管理職の共通の悩みだと思う。一を聞いて十を知ってほしいというのが高望みだとしても、せめて同じような説明を何度も繰り返したくないと思ってしまう。バックグラウンド(学歴、職歴、経験)によらず、最初から要領よく色々なことが吸収できる人がいる一方で、いつも懇切丁寧な説明をしなければ動けない人がいる。本書を読むと、この違いが腑に落ちる。なぜ、上司と部下の会話がかみ合わないかというと、見えている世界が違いすぎるからだ。見えている世界の抽象度が異なると、上司はいつも言うことが変わっているように見えるかもしれないし、部下は表層的なことしか考えられていないように見えるかもしれない。

 歩み寄るために、具体的な会話に翻訳したり、相手の考え方を推測して合わせることがとりあえずの解決策のようだ。具体的な世界しか見えない人が抽象的な世界を見えるようになるためのトレーニング的な解もあると、私も上司の目線を理解できるようになるかもしれないし、部下たちも悩みが減るような一冊になりそうだけど、そこまでは示されない。かみ合わないもやもやの正体が見えてくるという意味では有用なので、部下への指導や指示に悩みを持つ中間管理職は読んでみるべき一冊だと思う。

具体と抽象

具体と抽象

 

  

メタ思考トレーニング (PHPビジネス新書)