CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

ヘルタースケルター

 映画も良かったけれど、遅ればせながら読んだ原作は更に素晴らしい。個人的な感じ方だけど、映画を観てから原作を読むとどちらも好印象を受け、原作を読んでから映画を観てしまうとついケチをつけてしまう。不思議。でも、これは原作から入っても映画を楽しめたかも。沢尻エリカが主人公を演じたのは原作のイメージ通りだったし。人形のように美しいという言葉を誰も否定できない。社長役は加賀まりこのほうがビジュアル的に合うと中村うさぎが書いていたけど、業の深さみたいなのは桃井かおりの方が表現できると思うし。

 ちなみに、あらすじとしては、ほぼ全身整形の美人モデルである主人公は、怪しげな手法で美貌を手に入れており、メンテナンスが常に求められ、しかも段々と副作用はひどくなるというもの。そして、その整形を行った医者が不適切なビジネス(胎児の売買や危険な手術など)をやっているということで、捜査対象になり、やがて社会問題に。最後のシーンまであらすじが知られているけれど、何ともすごい。ドラッグにはまるように美容に取りつかれる主人公には、全然違う世界だけど福本伸行が描くギャンブル漫画でギャンブルにはまる人たちのような凄みを感じる。自分にはその要素が全くなくて共感もしないけれど、圧倒されてしまう。

 最期のシーンまでの軌跡も気になるし、TO BE CONTINUEDの言葉が本当にその通りなのか気になって仕方がないけれど、作者の交通事故以来新しい情報はない様子。

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

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ヘルタースケルター スペシャル・プライス [DVD]

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神主さんの日常

 身近だけど、実は詳しく知らない神社とその中で奉職している人のこと。本書は、埼玉県の三峯神社の神主さんへの取材によって、お参りの仕方や神主(神職)の身分・職階や教育・研修などが紹介されている。ただ、一つ一つのネタに対して割いているページ数がコンパクトなため、少し表面的な紹介になってしまうのは少し残念化もしれない。神事について詳しく知りたいという人には少し物足りないかもしれないけれど、神社の危機管理研修など意外なテーマに触れられるという意味ではとても面白い。 

神主さんの日常 1 (EDEN)

神主さんの日常 1 (EDEN)

 
神主さんの日常 2 (EDEN)

神主さんの日常 2 (EDEN)

 

 お寺の方は坊主DAYSが最高。

 こちらはお寺に生まれ育った作者によるもの、ということで、内容も詳しく、お寺や仏教について聞かれては答えということを繰り返された背景があるのか興味深い話が多い。そして、お坊さんだけでなくその家族のことやクリスマスとの折り合いなどちょっとした日常のことが面白かった。

坊主DAYS(1) (ウィングス・コミックス・デラックス)

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恋人たちの冒険

 子供のころに読んで印象に残っていた『鳥にさらわれた娘』と『あるジャム屋の話』。何となくもう一度読みたくなってキーワード検索したらあっさりと見つかり、読むことができて嬉しかった。一緒に収録されているほかの物語もとても素敵だった。

 この『恋人たちの冒険』に収録されている物語は、男女ともに、いずれかが人間。その主人公が動物(シギだったり、鹿だったり)と恋をする物語。

 読み返してみると、『あるジャム屋の話』は昔読んだときと同じような読後感だったけど、大人になって読むと『鳥にさらわれた娘』は少し違っていて、それも面白かった。『鳥にさらわれた娘』の主人公はちょっと勝手な感じがするけれど、若い頃に恋愛にコミットすることに怖気付く感覚が今だと少しわかるような気もして、シギはかわいそうだけど最終的には良かったのかなと。『あるジャム屋の話』の方は、鹿の女の子と築く空気が心に残る。疲れているときに読むと余計にそうかも。 

恋人たちの冒険 (安房直子コレクション)
 

  

安房直子コレクション 全7巻セット

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やさしいダンテ<神曲>

 欧州的な思考を理解するには必要な知識、教養とは言われるものの、いきなり手を付けると前提として要求される知識、教養も生半可でない超大作である『神曲』。少し仕事に余裕ができてきたので少しずつ読もうかなと思うけれど、難解な部分も多いので、まずは予習のために読んだ一冊。やっぱり、登場人物を紹介してもらえるのは大きいです。その人が歴史上どんな人物で、ダンテとどんな関係の人物なのか。平易な文章で日本人には少し馴染みのない冬至の社会的背景も知識を得られるので、予習としてはとても有用。

 キリスト教世界の地獄のイメージは『神曲』だと言われるけれど、こうして見ると地獄や天国のイメージというのは宗教を問わないところも多いなという印象。でも、生まれ変わって修行という概念がないから煉獄で浄化されるという感じなのか。この辺りは解説書だけでなく本編を読んで理解を深めたいところ。

神曲 ─まんがで読破─

神曲 ─まんがで読破─

 
神曲(全)

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壊れたおねえさんは、好きですか

 当初はメンタルを病んだ女性が魅力的に見える、のような話かと思っていたら、似たような話も登場するもののほんの一部。どちらかというと、美人でない女性から発せられるフェロモンに関することが中心。

 市原悦子には劣情をもよおしても泉ピン子にはない、というのがちょっと面白かった。分析内容には完全同委ではないけれど、分かるような気はする。『「魔性の女」に美女はいない』(「魔性の女」に美女はいない - CoffeeAndBooks's 読書日記)に通ずるものを感じる。

 それから、肌色の下着がのぞくのがセクシーかどうか、あとがきで本人は振り返るとサンプルが少なかったことから否定的になっていたけれど、面白い視点だと思う。実際に該当するような人を見たことがないからわからないけど、だらしない女性って少し性的に見える、というのはあるように思う。

 

  

Kindle Paperwhite Wi-Fi、ブラック

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「ココロ」の経済学:行動経済学から読み解く人間の不思議

 人間は必ずしも合理的ではない。効用というのも不思議なもので、効用が本人にとって高いから価格が高くても買うことがあるといっても、効用は測れない。たとえば、リンゴとミカンのどちらを買うか、予算的にどちらかしか買えない場合を除いては、価格でなく効用が選択に影響する。とはいえ、リンゴとミカンの効用は栄養価なのか、健康への効果(これも曖昧)なのか、味(好み)なのか、よく分からない世界だ。

 今回、さらに「ココロ」の不思議さを感じたのは、「内的動機」というもの。ここで紹介されているのは、『夢中になっているサルに褒美を与えると、サルのパズルの回答率が下がる』、そして『人間の場合も、金銭的報酬を与えると、パズルの正答率が下がる同じ現象が起こる』ということ。好きでやっているうちは打ち込めるのに、報酬が与えられると打ち込めなくなるのだろうか。

 オランダのトイレでハエの絵を描いたら使い方が向上したとか、この「ココロ」の癖を分析すると人の行動を変える効果も得られるらしい。やり方次第でコストをかけずに高い効果が得られるというのは魅力的だけど、人の行動とそこに影響を与える事象を分析するというのは難しそう。とりあえず興味深いネタが沢山散りばめられていて全編おもしろかったのだけど、使いこなすというのは別の世界なんだろう。

「ココロ」の経済学: 行動経済学から読み解く人間のふしぎ (ちくま新書1228)

「ココロ」の経済学: 行動経済学から読み解く人間のふしぎ (ちくま新書1228)

 

 

9割の人間は行動経済学のカモである ―非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす

9割の人間は行動経済学のカモである ―非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす

 

 

アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男/The People vs. Fritz Bauer

eichmann-vs-bauer.com

 本作は、第二次世界大戦後の戦争犯罪者に関する捜査を主導する検事長フリッツ・バウアーがスポットライトを浴びる。正義のため、信念のため、捜査を止めようとする組織に屈することなく身柄を確保し、裁判を行うために動き続ける。単純に復讐のためではないので、心情としては共感するものの、自分に同じようなことができるかというと難しいかもしれないと思ってしまった。そして、友人が戦争犯罪者であって、自分に権力があった場合に、自分がどのように振舞うかということを考えると、フリッツ・バウアーを妨害する立場の心情も少しわかる。特に、具体的な自分の周りの人を想像してしまうと。だから、"the Banality of Evil" (悪の凡庸さ)という話になるのだろうけど。

 

 第二次世界大戦を総括する映画がここのところ多い印象だけど、戦時中のものに比べて戦後処理(アウシュビッツ裁判関係)を立て続けに観ているような気がする。戦争犯罪者を追求しようとする若い検察官を主人公に、戦争犯罪者の実態が実は平凡な市民で、誰もが犯罪者になり得る可能性を描いた『顔のないヒトラーたち』顔のないヒトラーたち/Labyrinth of Lies - CoffeeAndBooks's 読書日記アイヒマンが逮捕され、開廷される歴史的な裁判を世界に配信するチームに焦点を当てた『アイヒマン・ショー』アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち/The Eichmann Show - CoffeeAndBooks's 読書日記。収容所に収容されていたユダヤ人女性の再生の物語である『フェニックス』あの日のように抱きしめて/the phoenix - CoffeeAndBooks's 読書日記

 それから、第二次世界大戦を扱う映画のうち、ドイツに関連するものは同性愛についても触れていることが増えているような気がする。本作でも、フリッツ・バウアーと部下がそれを理由に失脚させられようとしたり、脅迫されたり。『手紙は憶えている手紙は憶えている/REMEMBER - CoffeeAndBooks's 読書日記でも、同性愛を理由に収容所に収容されていた人が登場していた。やっぱり、昨今の多様性への認識が高まったことによるものなのだろうか。

 

 

 

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事総長

フリッツ・バウアー アイヒマンを追いつめた検事総長