CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

杉浦日向子の食・道・楽

 食事について、メニューに季節感がないことを嘆く人は多く、私自身も反省することが多いけれど、器についてはもっと無関心な気がする。そんなことを思ってしまう、酒器十二か月の章。各月に本人所有の器の写真が紹介されていてとても素敵。生活を楽しむ、ぜいたくに暮らすとはこんなことではないだろうか、とも思う。

 ひとりで食事する楽しみ、人と食事をする楽しみ、どちらも最高に素敵なことに思わせてくれるエピソードの数々も魅力的な一冊。粋な方でした。

杉浦日向子の食・道・楽 (新潮文庫)

杉浦日向子の食・道・楽 (新潮文庫)

 

 

いちまいの絵

 元キュレーターであり、絵画や画家をテーマにした小説も多い原田マハ氏による26枚の絵とそれにまつわる画家だったり時代だったりが紹介される、エッセイ的な一冊。有名な絵画は世界中で多くの人が詰めかけるので、なかなかじっくりと向き合える機会は得難い。そもそも、世界中の美術館を巡ることも難しいし、住んでいる地域によっては何とか美術館展も滅多にはやってこない。その点、仕事でも絵画とかかわり続けてきた専門家である著者は何度も素晴らしい絵画を実際に見たり、特別に一人向き合う機会を得たりとうらやましい。でも、そうやって感じたことを変な力みなく、上から目線でもなく共有してくれるスタイルは嬉しい。きっと、次に会う絵とはもっと対話ができるはず、と思える。ゲルニカはぜひタペストリーも見たいな。

 私は絵画には詳しくないものの、ここで取り上げられる絵画は少なくとも写真・画集レベルでは見たことがあるものばかり。おそらく多くの人にとっても同様なはず。一応、カラーのページで絵を紹介しているけれど新書ということもあって小さなものなので、少し記憶にある画像で補完したほうが良いかもしれない。

 著者が「いちまいだけ所有できるとしたら」と挙げる画家がゴヤではなかったことには少し驚いたけど(マハという名前は作家として語感で選んだのかな)、納得感のある一枚と言われる画家にさらに驚いた。素人にはただ意外。目が肥えるとわかる良さなんだろうか。

 

長閑の庭

 いつも黒い服を着ていて、シュバルツさんと呼ばれている大学院生の女の子が主人公。ドイツ文学の教授に恋をするも、年齢の差もあり相手にされない。でも、少しずつ距離を縮めるシュバルツさんに段々と心を動かされ、徐々に接し方が変わっていく教授。最初はシュバルツさんが素敵だと思っていたけど、読み進めていくと教授がかわいらしく見えてくる。

 まあ、こんなこぎれいな中年男性はファンタジーではあるものの、師弟関係に恋愛要素が入ってくることは時にあるかもしれないし、そのフィルターを通せばファンタジーは成り立つ。あまり枯れ専に共感することはないのだけど、この漫画は空気の良さもあってとても素敵に感じる。

 

一生モノの人脈力

 あまり自己啓発書を読んで心動かされることはないのだけど、この本は久々に感動し、少しずつでも実践しようと思わせられた。

 人脈は損得ではない、Give & Takeの総量は決まっていない、とにかく動くことが大切である、ということが具体的なエピソードとともに学べる。著者の行動力も素晴らしいし、出会った人々もすごいけれど、著者のお父さんのエピソードは泣ける。移民の労働者で貧しい。その暮らしからわが子を抜け出させるため、自分が働く会社のCEOに会い、彼の力添えでわが子を成功につながるトラックである名門校に入学させる。ついつい、そんなことできないと思ってしまうけど、できなければNoと言われるだけ。だったらやってみたほうがいい。ということで、著者の父親は子どものために三輪車をもらってきたり、自転車をもらってきたり。そして、与える側も一方的ではなく善行による心のベネフィットがあることが紹介されている点もなるほどと思う。私も少しでも誰かの役に立てるように頑張ろう。

 

一生モノの人脈力 フェニックスシリーズ

一生モノの人脈力 フェニックスシリーズ

 

 

 

 

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

 多言語を学習し、教えている著者ならではの語学書書評集。そもそもの発想が面白い。白水社から出版された語学書の書評、古典となった語学書の書評など年代も各種。

 著者が親しんだ言語以外でも、スキットに出てくるタイ人の青年の好青年ぶりなど、何か拾って紹介してくる。読んでいるといろいろな言葉を勉強してみたくなってしまう。今回は、ドイツ語とフランス語を本腰入れてもう一回勉強しようかなと思ってみたり、変わり種でブルガリア語やってみようかなと思ってみたり。

 それにしても、寝るまえ5分といいつつ、この本は一気に読んでしまったし、紹介されているどれもがじっくり取り組みたい本ばかり。気楽そうなタイトルに引っかかってしまった。

 

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

寝るまえ5分の外国語:語学書書評集

 
ポケットに外国語を (ちくま文庫)

ポケットに外国語を (ちくま文庫)

 

 

管見妄語 とんでもない奴

 新刊コーナーから何となく購入し、喫茶店で最初のエッセイを読んで一瞬後悔。著者の華麗なる一族ぶりと人脈が披露され、何のオチもなく、ただそれで終わる。まさか、一冊すべてこの調子ではないよね、と読み進め、トルコ旅行とトルコの親日ぶりにおける歴史的背景、といったところから面白くなって安堵した。人脈自慢にも穂積真六郎との交流のように、こんな素晴らしい日本人がいた、ということを教えてくれるエピソードも入っていて、勉強になる。

 私の父と同世代の著者ということで、主義主張として相容れないものを感じるところはあるものの、『平等平等、あぁうるさい!』という帯から想像していたような過激な偏った論ではなく、筋として理解できるところも多く鋭い考察が多く、とても面白かった。

 そして、身体能力の衰えについて書いているところで、それでもお年を考えると相当に身体能力が高そうで驚いた。体の健康は頭の健康でもあるのか。

管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

管見妄語 とんでもない奴 (新潮文庫)

 

 家族の思い出として語られる新田次郎の執筆、編集者との付き合い方と最近の小説の作られ方の違いから、最近の小説がつまらないと書かれているところは、なるほどと思う。人の手が掛かれば何でも良いわけではないけれど、やっぱり細部が気になって読み進められない本も最近は多い。司馬遼太郎に史実オタクが嚙みついて晩年は歴史小説を書かなくなったなんて聞くと勿体ないと思う一方で、あまりにも荒唐無稽な歴史の借用や科学技術の展開をするならいっそ完全に世界を作りこんでファンタジーにしてよ、と思うことが多いのも事実。

 しかし、著者が新田次郎のご子息だったとは!と思ったけれど、よく見るといろいろなところでプロフィールに書かれている。自分ごとながら、人の目の拾える情報ってあてにならない。

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

 
新装版 武田信玄 風の巻 (文春文庫)

新装版 武田信玄 風の巻 (文春文庫)

 

 

独立記念日

 短編集。ある短編の登場人物が次の短編の主人公になる構成。そして最後は、最初の短編の主人公のその後、という面白い構成。

 シチュエーションは様々だけど、基本的にはコンプレックスや悩み・仕事の躓きといったものを主人公が克服していくもので、前向きな再スタートが描かれている。そして、いつものごとく嫌な人が出てこない。いじめのあった学校で担任のせいにして責任逃れをしようとする同僚教師やちょっとした不注意からスキャンダルに見舞われたキャスターに背を向ける同僚など、嫌な人たちは存在しているのだけど、そんなものに頓着しなくても、人は前を向いて歩いていけるし、生きていける。そう思うと、とても素敵だ。

 一番好きなのは、『誕生日の夜』。幼馴染からの友情の複雑さを乗り越えて、やっぱり友達っていいなと思わせる。疲れていたり、自分が追い込まれていると、何とかして奮い立たせようとするけど、ついついマウンティングしてしまうということは、男性も女性もあると思う。でも、ニュートラルに頼ってしまったと反省できるのかというと難しく、それができるのは長い友情、途中で格差を感じたにしても元は対等に遊んだ過去があるおかげなんじゃないかと思う。

独立記念日 (PHP文芸文庫)

独立記念日 (PHP文芸文庫)

 
ジヴェルニーの食卓 (集英社文庫)