CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

ドリーム/Hidden Figures

 今や、男女格差が114位(政治123位)の日本においても最大の広域地方公共団体の知事を女性が勤め、女性で役職を持つ人も多くいるし、アメリカでは大統領に女性が挑み大接戦を繰り広げた(しかも当初は彼女が勝つと誰もが予想していた)。そして、アメリカの前大統領は黒人だった。今も人種差別や性差別は多くの場所で行われ、先端的な企業でも主流は白人の男性であることが多いけれど、世の中は少しずつ平等や公平を手に入れつつあるように思う。その基礎には、偉大なことを成し遂げ続けた先人の歴史がある。そのことを強く感じた映画。

 この映画は、3人の女性が主人公。天才的な数学者であるキャサリン・ゴーブル・ジョンソン、計算係(human computer)を事実上は監督しつつも黒人女性だからという理由で昇進できないドロシー・ヴォーン 、優秀なエンジニアとしての素養を見せつつも黒人女性であるためにエンジニアになるための必須要件である学位を取得できないメアリー・ジャクソン。

 職場では、トイレも休憩場所も有色人種は隔離されている。そのため、キャサリンは Space Task Groupに異動後、そのビル内に有色人種用のトイレがないため40分かけて有色人種用のトイレに行く。実際のキャサリンは白人用のトイレを使用していたということで、映画用の脚色ではあるけれども、おそらく多くの非白人は同様の苦労をしていたのだと思われる。鑑賞後の感想として意見が分かれている、キャサリンの上司であるハリソン氏が有色人種用トイレの看板を打ち壊す場面についても脚色部分で、否定的な意見としては『見ている白人が安心するため』媚びている感じがすると言われている。私は、このシーンに実は肯定的で、これは白人で、男性で、かつ立場の高い人が正しいことをしたので意味があると思っている。この映画は差別の苦しさを描くものではなく、人種差別の中でも有意義な仕事をした女性たちがいて、彼女たちがやるべきことをやり続けた結果として報いられるという希望の物語だと思う。マイノリティが戦っているだけだと差別や壁はなくならない。やっぱり差別する側が、自分自身のせいかどうかは別にして、自分たちのしていることに気付き、正す行動が必要。だから、あのシーンには本当に感動した。

 そして、エンジニアになることを心に決めたメアリーが、白人向け高校に通うための歎願を起こすシーンも感動的だった。実際のメアリーは当初から学位を持っていたということではあるけれど、誰かが最初の一人にならなくてはいけない、というのは素晴らしいメッセージだと思う。本当に素敵な映画。

ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)

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  • 作者: マーゴット・リーシェタリー,山北めぐみ
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  • 発売日: 2017/08/17
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「ドリーム」オリジナル・サウンドトラック

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Hidden Figures [Blu-ray]

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国会女子の忖度日記: 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく

 私も例の事件が起きるまで『忖度』なんて言葉は知らなかったけれど、『忖度』を日々の仕事としている議員秘書(それもベテランの政策秘書)が明らかにする議員秘書の世界と一部の議員に関するうわさや評価。ちょっと愚痴っぽさが気になるものの、衆院選投票日の今日、面白くて一気に読んでしまった。実名と匿名の微妙な感じもいろいろと憶測ができて面白い。

 議員との関係についてはそれほど驚きがないけれど、後援者との関係は「昔の話」と前置きがありつつも驚く。椅子をけられるパワハラくらいなら我慢できても、票のためにそこまで、と変な尊敬をしてしまう。そして、議員だけでなく、秘書も付き合うのかと思うと、大変なお仕事だ。

国会女子の忖度日記: 議員秘書は、今日もイバラの道をゆく

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女神の見えざる手/Miss Sloane

miss-sloane.jp

 ワシントンDCの敏腕ロビイストが主人公のこの映画、ものすごく興奮させられる。勝利に取りつかれた天才、チームメンバーをリソースとして最大限に活用する徹底した合理主義は理解を得られにくいけれど、確実に結果を出す。とにかく、睡眠障害や薬物依存、エスコートサービスの常連などちょっと生活が破綻しているところもありつつ、しっかり仕事をしているシーンはかっこよすぎる。公聴会の最後は圧巻。まあ、自分がなりたい姿や一緒に働きたい存在ではないかもしれないけれど、一度はご一緒してみたい強烈な人物。

  そして、強烈なキャラクターを主人公に持ちつつ、ほかの登場人物もしっかりと描かれているなという印象。フォード君なんて本当に彩りだと思っていたら、意外にきっちり仕事をしてくれるし。また、衣装も素晴らしかった。10センチはありそうなピンヒールは別にして、働く女性にとって参考になるファッションも多い。

Miss Sloane [DVD] [Import]

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敏腕ロビイストが駆使する 人を意のままに動かす心理学

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  • 作者: フォルカー・キッツ,畔上司
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2014/10/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術 (光文社新書)

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ロビイスト―アメリカ政治を動かすもの (講談社現代新書)

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社内政治マニュアル

 直接的で、書店で手に取るのは少し躊躇するけれど、大丈夫、Kindle版があった。

 内容としては、「職場の駆け引き術」というけれど、人を自分が思うように動かすという方向での駆け引きはあまりない。印象に残るのは、自分に対して攻撃的・非協力的に見える人には、その人の視点・利害があるので理解に努めましょう、卑怯なことをする人には、何をしているか知っていると伝えて牽制しましょう、というきわめて真っ当な教え。ただ、コミュニケーションの仕方については勉強になるので、この手の教育を受けたことのない身には役に立つ内容。 

ハーバード・ビジネス・レビュー公式ガイド 社内政治マニュアル

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なぜ昇進するのはいつもあなたではないのか もっと早く知っておきたかった「社内政治」の技術

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会社でチャンスをつかむ人が実行している本当のルール

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プラネタリウム/planetarium

planetarium-movie.com

 なんだか、よくわからない映画。舞台は1930年代のパリ。降霊ショーを行うアメリカ人姉妹と彼女たちを題材に映画を撮ろうとするプロデューサーが主な登場人物。不思議な力があるのか、ただの詐欺師なのか、という問いへの答えは比較的すっきりと出される。でも、この映画のメッセージがよく理解できないまま終わった。

 プロデューサーのコルベンはどうやらユダヤ人で、第二次世界大戦の直前という時期に微妙な存在であり、元々会社のお金の使い方でケチのついていた存在。そんな彼が『よくわからない』降霊にはまり多額のお金をつぎ込み、少しずつおかしな感じにもなっていく。『見たかったものを見せてくれる』降霊にはまって悲劇に近づいていく話なのか、野心に満ちた美女が引き換えにいろいろなものを失っていく話なのか。もう一度くらい見てもよいかもしれない。 

 

 

 

オン・ザ・ミルキー・ロード/On the milky road

onthemilkyroad.jp

 3つの実話と多くの寓話に基づく、という隣国と戦争中のとある国が舞台のお話『オン・ザ・ミルキー・ロード(On the milky road)』。80年代の体操選手だったという主人公・コスタのフィアンセ?であるミレナの台詞や多国籍軍の介入など、ユーゴスラビア内戦を思わせる要素が沢山。監督エミール・クストリッツァといえば、ユーゴスラビアの歴史を描いた『アンダーグラウンド』が著名だけど、この映画はかなりアプローチが違う。

 本作では、旧ユーゴスラビアらしき国の田舎で、トラウマがもとで恐怖が麻痺したとみえるコスタが、ロバに乗って銃弾の飛ぶ中でミルク運びをしている。そのミルクを供給している農家のミレナは、ある日、花嫁を買ってくる。なんと花嫁は2時間の間ずっと名前がなく、クレジットにも'Bride'とあるだけ。美しいモニカ・ベルッチが演じるBrideは、美貌が元で悲劇的な過去を持ち、この戦時下も追われる存在。美しいことが悲劇の元、なんて台詞に説得力を持たせられるのはすごい。

 なお、この映画は戦時下の話でありつつも、銃撃などの戦争映画的な場面は限定的。でも、冒頭の屠畜後に豚の血をためたバスタブにガチョウが次々と飛び込む場面など、別な形で気持ちがざわつく場面が多い。ミレナも別なホラー映画が一本作れそうな狂気を感じるし。大時計の場面はチャップリンの喜劇的な、と言う感想も聞いたけれど、私にはあまり喜劇的に見えなかった。東欧ユーモアを解する感性がないのかもしれない。一方で、最後の最後のコスタが石を運んで・・・のくだりは少し感傷的な気持ちにさせられた。羊飼いのおじいさんの台詞も、重い。その重さを感じさせるのは、すごい映画だと思う。

 

 

夫婦の中のよそもの

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マレーナ [Blu-ray]

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杉浦日向子の食・道・楽

 食事について、メニューに季節感がないことを嘆く人は多く、私自身も反省することが多いけれど、器についてはもっと無関心な気がする。そんなことを思ってしまう、酒器十二か月の章。各月に本人所有の器の写真が紹介されていてとても素敵。生活を楽しむ、ぜいたくに暮らすとはこんなことではないだろうか、とも思う。

 ひとりで食事する楽しみ、人と食事をする楽しみ、どちらも最高に素敵なことに思わせてくれるエピソードの数々も魅力的な一冊。粋な方でした。

杉浦日向子の食・道・楽 (新潮文庫)

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