翻訳地獄へようこそ
語学書なのか、エッセイなのか、なかなか分類に悩むところ。古今の誤訳に対して、なぜ誤訳が起きたのか(勘違いのもと、大抵たったひとつの単語の意味)、本来は同約すべきだったかを解説する。それだけを切り出すと教科書的ではあるけれど、随所に織り込まれる英米の事情であったり、題材とされていない書籍に関する情報であったり、が非常に豊富なので、英語に興味がなくても面白いのではないかという意味でエッセイとしてもよくできている。
誤訳の数々を見て思うのは、予備校時代の講師に「知っている単語ほど辞書を引け」と言われたことや、乱読多読に合わせて精読も絶対にするべきと指導されたことを思い出し、感謝する限り。私は翻訳を生業にはしていないものの、ちょっとした文書の翻訳を見ることが業務にあるけれど、やっぱり知ったつもりの訳に飛びついてとんでもない誤訳をしている例を見かけることが多々ある。これは英語力もあるけれど、多面的に情報を見たうえで、自分の訳が本当に意味を為すか疑いを持てないことに起因するようである。自分自身も時にはそういったことをしている可能性もあるので、自戒を込めて定期的に読みたい一冊。
同じ著者のほかの作品も読みたいけれど、どうやら絶版が多そう。Kindle化をリクエストしてお待ちする。
読書の学校 中野京子 特別授業 『シンデレラ』
シンデレラといえば、心が美しければ周囲の助けを受けて幸せになれる、という美しい童話であるけれど、グリム童話などでは姉たちが指や踵を切り落としたりシンデレラの輿入れ後に目を失ったりの残酷描写もひところの残酷童話ブームで知られているところ。であるけれど、なぜシンデレラの足が姉たちには(指や踵を切り落とさなければ)履けない靴を履けるほど小さいのか、という考察は初めてかもしれない。
そもそも当時のシンデレラの読者はどんな層なのか。そこから、王子と結婚できる条件とは、当時に目を止められる条件とは、といったことが解説される。新しい知識だけど、納得感のある展開で読み進めやすくわかりやすい。
ヒーロー漫画などでも、出自のはっきりしない主人公が実は高貴な血を引いているとか、そういった類型は多い。これは昔話の刷り込みなのか、やはり王権神授説みたいな何らかの特別な力で選ばれた存在がヒーローと思いたいからなのか。このあたりを深堀してみたいところ。
別冊NHK100分de名著 読書の学校 中野京子 特別授業 『シンデレラ』 (教養・文化シリーズ)
- 作者: 中野京子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/25
- メディア: ムック
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ベルサイユのばら エピソード編
発売から3年も経ってから知った続編の存在。ベルサイユのばら、登場人物の過去と革命後のエピソード。
個人的には、フェルゼンの晩年を描く前に、プチトリアノンの外でのフェルゼンについても描いてほしかったかもしれない。ベルばら本編の最後、マリーアントワネットを奪った民衆を憎悪し民衆から嫌われ、というような書かれ方をしていたように記憶しているけれど、もともとスウェーデンの大貴族であり、体制として王政を守らなくてはいけない立場にあることを考えると、民衆に対しても革命前から危機意識と抑え込もうという意思は持っていたのではないかと思うし、そうでないのだとすると、より一層、革命前と革命後を対比してほしくなる。
ただ、フェルゼンの死までを読むことで、ずっと大好きなベルサイユのばらが遂に完結したという実感を持った。作者もオスカルの死後は何回かで終了させるようプレッシャーがあって消化不良だった、というようなことをインタビューで語っていたけれど、それは読者も同様。エピソード編の読後は、本編読後の悲しい気持ちよりも、少し寂しい気持ち。
そして、ジェローデルへのスポットライトの当たり方が意外で興味深かった。本編ではオスカルに求婚したかと思えば、比較的あっさりと身を引き、紳士的に見守り続けたジェローデル。感情豊かな若い時代から、サンジェルマン伯爵の伝説を思わせるような存在への昇華。作者のジェローデルへの思い入れについては、興味がある。
ベルサイユのばら エピソード編 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
- 作者: 池田理代子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/07/24
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ヒトラーを欺いた黄色い星/Die Unsichtbaren
ここ数年は第二次世界大戦を振り返る映画が多く、正義と悪の簡単な対立ではなく個々の市民や兵士の葛藤や悪の凡庸さのようなものに焦点を当てた作品も多く作られ、戦争に対していろいろな視点から考えさせられた。
本作は、ホロコーストを逃れるため戦争中のドイツで隠れて暮らすユダヤ人の物語。協力者がいなければ隠れることも難しく、協力者には当然リスクがある。そんな中で、消極的に協力する人もいれば積極的に協力する人もいるし、そうかと思うと同胞でも密告者となって敵側に回る人もいる。そんな中で生き延びた人たちと彼らがどうやって生き延びたか、を再現映像と本人のインタビューで紹介する。中には、もう天寿を全うしている人もいて、あらためてここ数年で語り継ぐために多くの人が声を上げたこと、その声を伝えようとしたことの切実さを感じた。
それにしても、どうしてユダヤ人に対する憎悪があれほどになったのか、宗教的な背景や経済状況などいろいろと言われているけれど、そういった背景が腹落ちする環境にいない私には理解が難しい。昔観た「ふたつの名前を持つ少年」だったと思うけれど、ユダヤ人かどうかを確認するために割礼の有無を見せろと主人公の少年が追いつめられる場面があったことから、見た目には区別のつかない人が多くいたようで、本作でも髪の毛の色を変えた女性は、本人はびくびくしているものの、普通に街中を歩くことができている。文化の違いにしても、少なくともドイツ人とユダヤ人で友情を育んでいる人たちもいるくらいに共存しているわけだし。
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オーシャンズ8/OCEAN'S 8
オーシャンズ13の続編はなかったけれど、女性ばかりの華やかなオーシャンズもとても素敵。メットガラを舞台に、門外不出のアクセサリーを盗み出す。しかも、ただ盗むだけでないあたりが面白い。そして、なぜ、オーシャンズ7でなく8なのか、という仕掛けも、軽く驚かされる。うまい。
ストーリーもさることながら、役者が最高で、どの訳もはまっていると見えた。サンドラ・ブロックの大胆不敵さも良かったけれど、なんといってもケイト・ブランシェットがかっこいい。低い声、スリムな体型、クールな立ち居振る舞い。リアーナの天才ハッカーもキュートで、いつもと違う魅力が楽しめる。さらには、カメオ出演の豪華な顔ぶれも。映画館の大きなスクリーンも堪能したけれど、カウチポテトでわいわい喋りながら観るのにもよさそう。
ハラハラドキドキさせすぎない若干のご都合主義も、安心して楽しめる映画としては重要な要素だと実感させられる一作。
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The Bold, the Corrupt, and the Beautiful
機内上映されていたこの映画。母と姉妹が出てくるのにどうして三代にわたる家族の、という説明があるのかと思っていたら実は姉妹というのが・・・。そこまでは想像も難しくないけれど、なぜ、妹が生まれたかという背景がわかると、すごく重い気持ちになる。
舞台は40年くらい前の台湾。やり手の骨董商の母親は政治家に影響力を発揮するだけでなく、人の命も犠牲にできる冷血さ。一方で、露悪的な娘は実は弱く、実の母から受けた仕打ちを考えると、なんだか悲しい。そして、最後に勝って笑えるしたたかさを持つ人というのは実はそうは見えない。
観ていて最後まですっきりしないけれど、引き込まれてしまう不思議なパワーがあるのも事実のこの映画。女性同士の家族が持つ難しさを描いている、という評価もあるけれど、どちらかというと周りを犠牲にしても上り詰められる人間が描かれているように思う。人の業をただひたすら描いているというか。同じ女系家族の葛藤でもジョイラッククラブとはずいぶん違う。
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