CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

潔白

 犯人とされた人物の死刑執行から15年後の再審請求。当然、それだけの理由があっての再審請求なので、過去の失敗を認めるわけにいかない検察は、策を弄して対抗する。

 本書は犯人捜しの要素もあるけれども、犯人捜し以上に、冤罪によって死刑になってしまった人物の無念や、その事実を認めることが簡単にはできない組織で働く人物模様や主人公の葛藤が主題と思う(犯人捜し自体は、ミステリーとして正統派の構成であることも手伝い、あまり難しくはない)。主人公がどうやって折り合いをつけるのか、または、正しい行動にかじを切るのか、気になってついつい頁をめくってしまう。

 間違いをただすことができない、というのは多くの組織に共通することで、冤罪という恥ずべき出来事を正すことができない状況に、主人公が反発しつつも弱腰な対応をするのが、とてもリアル。それでも、最後は事実が明らかになり、後味は悪いけれども犯人も判明する。

 しかし、最後に判断を彼に任せてよいのか、少し納得がいかないところもある。ほかのだれかを犯人に仕立てて安穏と生きるだけでも許しがたいのに、真犯人とわかるまでに何をしてきたか、卑怯という言葉では片付けられないくらいの真犯人。でも、現実世界でも、加害者というのはそんなものかもしれない。 

潔白 (幻冬舎単行本)

潔白 (幻冬舎単行本)

 

 

女王陛下のお気に入り/the Favorite

www.foxmovies-jp.com

 人の怖さを感じる、という感想も聞いていたけれど、私にとっては、人はいくつになっても成長できることを教えてくれる成長物語だった。

 痛風に悩むアン女王は、それなりの年齢で、王位について以来の腹心サラに動かされているような状態。サラの従妹として宮廷に入ったアビゲールとの出会いから少し変わって、自我を取り戻していく。その後、お気に入りの地位はサラからアビゲールに移行するけれど、アビゲールを側近にしてもアビゲールに支配はされない。最後のアン女王の表情は素晴らしかった。映画はすごいなと思うのが、アン女王のサラに支配されているときの顔と、女王として目覚めてからの顔が全然違う。

 そして、側近の座から離れてからも女王を案じるサラと、アビゲールの権力を手に入れた後の堕落ぶりは、サラの野心が自身の生活のような小さなところにはなく、その政策的な正しさは別にして国を正しい方向に持って行こうという矜持にある一方、アビゲールは成り上りたい、のし上がりたいしかない人物、という違いを感じされる。日本人といえば判官贔屓なのか、ついつい、サラに肩入れしてしまうけれど、この二人の勝負はアビゲールが制する。しかし、このアビゲールの処世術は豊臣秀吉も真っ青でなかなか面白い。

映画『女王陛下のお気に入り』 (オリジナル・サウンドトラック)

映画『女王陛下のお気に入り』 (オリジナル・サウンドトラック)

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  • 出版社/メーカー: Decca (UMO) (Classics)
  • 発売日: 2019/01/07
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全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ

 さすがに常備されている食材だけ、とはいかないけれど、近所にあるそれなりのスーパーがあれば手に入りそうな食材で楽しめる、テーブルの上の世界旅行。世界196か国の、ちょっと豪華な家庭料理という感じだろうか、大掛かりな道具はいらないけれど、メインになりそうな料理が並ぶ。隣り合った国で、微妙に似ている料理の類似点と相違点を見るだけでも楽しい。

 鶏肉の国、牛肉の国、魚の国、などタンパク質の違い。素材の味を生かした料理もあれば、スパイスをきかせた料理と味付けの考え方の違い。そして、時にはチョコレートもデザートではなく食事の材料になるといった驚き。世界の多様性は、それだけで楽しいし、日本人読者の舌に合わせたアレンジもあるのかもしれないけれど、驚きの組合せも食べてみるとおいしい。とにかく、食べているうちに旅に出かけたくなる魅惑のレシピ集。

全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ

全196ヵ国おうちで作れる世界のレシピ

 

 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅

 不勉強で、ダークツーリズムという言葉はつい最近まで知らなかった。戦争、災害、病気、差別、公害といった影の側面に焦点を当てた旅を、ダークツーリズムと呼ぶらしい。例えば、夜景と鮨が有名な小樽は、北のウォール街と呼ばれたり、鰊御殿と呼ばれる豪邸が建ち並んだり、と栄華を誇った時期がある一方、小林多喜二を輩出した地であり、栄えた町の負の側面として遊郭やそこで働くことを強いられる女性がいたり、という暗い部分があったり、その後の衰退の歴史も明るいものではない。そういった面にも目を向けて旅をする、というのは、ただ美味しいものを食べてきれいな景色を見て帰る旅よりも、印象に残るだろうと思う。すべての幸せな家庭は互いに似ていて、不幸な家庭はそれぞれに不幸だ、と言われるように、不幸な歴史というのはそれぞれに違いが明確に感じられるから。

 この書籍では、ダークツーリズムの対象となる地域とその歴史を紹介する一方で、ただ暗い学びの旅を推奨するものではない。少し焦点がぼやける印象がないこともないけれど、やっぱり重い歴史だけでは余程の思い入れのある出来事出ない限りは旅に出る背中を押しにくい、と考えると、非常にバランスの良い一冊かもしれない。少なくとも、旅に出る前に、何か学ぶべきことや現地で考えることがないか、そんな準備をしようと感じた。 

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

ダークツーリズム 悲しみの記憶を巡る旅 (幻冬舎新書)

 

 

 

 

バンク・ジョブ/The Bank Job

 実際の事件("Baker Street robbery")に基づくという映画。MI5の工作によって、素人の犯罪者たちが銀行強盗を計画。その裏の目的は王女のスキャンダル写真を回収すること。銀行の貸金庫からの強盗であれば、後ろ暗い資産も多く、被害者が公にしにくい、被害届も出しにくい、と首謀者のマルティーヌが仲間を初期に説得していたけれど、実際に表に出せない資産が多かったことは事実。そのため、賄賂の裏帳簿や政治家を脅すためのスキャンダル写真など、お金や宝石以外の預けられた資産を巡って、犯人たちは危険な目にあったり、命を落としたりする。

 最初はオーシャンズのような映画を期待していたけれど、こちらは少し暗い気持ちになる映画。ケチな犯罪者がちょっとした出来心から深刻な事件に巻き込まれるのは切ない。とはいえ、とても興味深い映画。 

バンク・ジョブ (字幕版)
 
バンク・ジョブ [Blu-ray]
 

 

歴史をつくった洋菓子たちーキリスト教、シェイクスピアからナポレオンまで

 紹介される洋菓子は、ガトー・デ・ロワ、クレープ、アップルパイ、エクレール、ヴォローヴァン、ザッハトルテ、マドレーヌ、ブリオシュ、パンプキン・パイ、サヴァラン、ビュッシュ・ド・ノエル、パン・デビス、タルト・タタン、ビスケット。フランスを代表する菓子もあれば、アメリカ人のソウルフードとも言える菓子もあり、普段の生活で目にする洋菓子の多くに触れている。

 菓子の出自から、名前の起源、そして形状に関するあれこれ(マドレーヌはなぜ貝の形なのか、など)について、様々なエピソードが紹介されていてとても興味深い。読んでいると、重たいバターと砂糖たっぷりのケーキが食べたくなってくる。

 読んでいて面白いのは、カレームというパティシエの存在。さまざまな洋菓子を生み出したとされつつ、年表に照らしてみるとどうも不自然とのこと。やたらと伝承が結びついてしまう人物というのはどこの国にもいるけれど、カレームは1800年代の人物ということもあって、考証がしやすい様子。しかし、レシピの本当のオリジナルを特定することが難しいということもよくわかる。なんとなくやってみたり、代用したらおいしかったり、そんなことを繰り返して洗練されて、どこかで権威が認めたり世の中で人気になったりしたところで、名前が広がる。有名なパティシエが生み出した菓子ならわかりやすいけど、郷土料理から発展する場合は起源などわからない。なので、結局は諸説ありになってしまうことも多々あるもの。それでも、こんな謂れのある菓子で、なんてお話をしながら楽しむと、より美味しいのも事実。

 

   

BRUTUS(ブルータス) 2018年 11月1日号 No.880 [洋菓子好き。] [雑誌]

BRUTUS(ブルータス) 2018年 11月1日号 No.880 [洋菓子好き。] [雑誌]

 

 

きのう何食べた?

 雑誌で読むと「そこそこ面白いけど印象には残らない」と思っていた。ところが、1巻からまとめて読んでみると、何度読み返しても違う味わいがあって、すっかりはまってしまった。

 基本的には1話完結で、主人公のゲイカップルのちょっとした日常の出来事と食事風景が淡々と描かれるもの。であるけれど、同性愛に対する世間の目に少し悩む姿とか、男女の伝統的な性別役割みたいなものに反発する気持ちであったり、そういったものが織り交ぜられていて、いろいろと考えさせられる。男女の伝統的な性別役割に真っ向から反発していく主張はないけれど、かわいらしい奥さんからのDV被害者がクライアントになった際の主人公(町の弁護士)の対応だったり、母親から「なんだか女の子みたい」と微妙な態度をとられる場面だったり、そういったシーンから、読者に考えさせるのが上手いなと思う。大奥では男女逆転の江戸時代から人間の本質的なものを描いていくアプローチだとすると、こちらはほのぼのした日常から世間に対してちょっとしたチャレンジをしている印象。

 なお、作者は、いわゆるボーイズラブを中心に作品を発表してきた方だけど、そちら系のシーンはモーニングで連載ということあってなし。そして料理のレシピもとても参考になる。