CoffeeAndBooks's 読書日記

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わたしを離さないで

 カズオ・イシグロという名前をはじめて見たとき、スガシカオみたいなものかな、と思っていたのだけど、日本出身のイギリス人作家なんですね。その出自のおかげか、彼の作品に登場する日本(たとえば『浮世の画家』)は西洋的な視線で異国情緒を持って描かれている一方で、不思議と地に足のついた感じがします。逆にイギリスの描き方をイギリス人はどう感じるのか、気になるところです。などといいつつ、今日はイギリスが舞台の『わたしを離さないで』。

 

『わたしを離さないで』は、クローン技術を扱ってはいるけれど、それによって起こされる社会的な問題が訴えられることも大事件が起こることもありません。特殊な出自の子ども達が成長し、若者となり、人生と向き合う姿が描かれています。淡々と、自分を犠牲にしながら存在意義を全うする主人公達が。

 彼らは、非常に短い人生を思いやりを持って生きていきます。運命を受け入れる、ということが自分自身の身に置き換えると想像ができないけれど、受け入れて向き合うからこそ美しくなる人生もあるのかな、と思わされます。もう少し老齢になってから読むと違った感じ方ができるかもしれません。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)