CoffeeAndBooks's 読書日記

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BUTTER

 月並みな感想だけど、すごい小説。テンポはゆっくりと、でもぐいぐいと引き込まれる。主人公の記者 里佳と一緒になってカジカナに惹かれ、何とも変な気持ちになってしまう。

 世間をにぎわすニュースに着想を得たストーリーは多くあるけれど、これはひとつ新しいスタイルかもしれない。犯罪行為や犯人の心の闇ではなく、いかに被害者が犯人に惹かれていくか、この美人でないモテモテ結婚詐欺師的な女性に対して周りがヒリヒリした気持ちになるか、にフォーカスしている。

 この作者の小説は同性の関係を描くのが絶妙で、ナイルパーチの女子会でも惹かれたり嫌悪したりの複雑な関係が読んでいて心をざわつかせたけれど、本作でも同様。とはいえ、ナイルパーチの女子会に比べるとさっぱりしているかもしれない。本作では、週刊誌の記者が、次々と婚約者を死に追いやった結婚詐欺師(しかも美人ではない)との接触を通じて、翻弄されつつ周囲の人々との関係を見つめなおすというもの。

 ブッフブルギニョンにこだわりを見せ、ロブションをこよなく愛するグルメなカジカナ。そんなカジカナのこだわりはバターで、バターご飯について熱く語る。バターご飯の面会の場面は、主人公と一緒にカジカナにのめりこみそうになってしまう。魅力的だとかそんな描写はないのに。

 カジカナの正体は結局よくわからなかったけれど、彼女に惹かれる気持ちの正体みたいなものについては、少し考えることができる、不思議な小説。 

BUTTER

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