CoffeeAndBooks's 読書日記

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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス/Ex Libris: The New York Public Library

 映画館が限られるのが残念な、見る価値のある一本。

 舞台はそのままニューヨーク公共図書館。官民パートナーシップにより、市の予算と民間からの寄付により成り立つ予算を基に、ただ本を貸すだけでなく、コミュニティをよくするための活動(芸術の振興や教育を含む)を企画・実行し、一時的な書籍の貸し出し数だけでなく将来的な資産となる書籍の購入や図書館の未来を考える舞台裏は、きわめて興味深く部外者にとっても文化について考える良い機会になる。

 個人的には予算取りの戦略まで明らかにしてしまって大胆だな、と思うけれど、比較的うまく予算取りができているニューヨーク公共図書館(NYPL)ですら、青天井ではなく限られた予算を効率的に使う必要がある。彼らはただ本を集め貸すだけでなく、スキルが今時点でない人たちに教育を受けさせ職に就く手助けをしたり、学校に採用されている教科書に嘘があることについて声を上げ本当の歴史を伝える努力をしたりする。そして、定期的なイベントが素晴らしく、詩人にインタビューしたり、朗読があったり、手話通訳者のワークショップがあったり、と多種多彩。舞台裏も面白いけれど、活動カタログとしても十分に面白い。世界中の図書館員の憧れというのも頷ける。東京にも日比谷図書文化館とか、面白い試みをしているところはあるけれど、やっぱりNYPLに比べると少し分野が限定的な印象。

 特に興味深いのは、建築家の発言で、北欧の図書館はたくさんの本があって、南に行くとほとんど本はなくなる、しかし図書館の目的は知識を得ることであって本を保管することではないのだ、というもの。アフリカには年寄りが亡くなるのは図書館が消失するのと同じだという諺があると何かで聞いたけれど、きっと本以外のコンテンツで文化や知識を教えてくれる愉快な図書館が世界にはあるのだろう、とわくわくした。といっても私は日本とアメリカ以外の図書館を知らず、想像したのみだけど。

 それから、アメリカの教科書にも嘘があるということは、考えてみればどこの国にも起こりうることで不思議はないものの、公平な国を喧伝しているだけに、公共機関がそこに踏み込むことは意外性があり驚いた。アメリカの教科書では、奴隷貿易によって連行された黒人を、移民労働者と紹介する教科書があるらしい。NYPLのイベントでも黒人文化に関するものが多いようで(Schomburg Center for Research in Black Cultureという黒人文化に関する分館もある)、映画では一部を紹介されるだけだったけれど、改めて関心を持つ機会になった。

 

http://moviola.jp/nypl/

moviola.jp

 

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

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図書館巡礼:「限りなき知の館」への招待

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現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

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