私にふさわしいホテル
最近、気に入って毎週のように通っている日比谷シャンテ3階の書店HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて、『山の上ホテル+帝国ホテル+カンヅメ』と書かれた3題噺の文庫。手に取ってみると、割と好きだけど全作追い切れてはいない柚木麻子氏の未読の一冊。思わず購入。
読み始めてみると、BUTTERやナイルパーチの女子会に比べると、軽め。と思いきや、主人公の業の深さが凄まじく、終盤に披露される執念というか情念は他では見られないもの。本作は、作家志望で新人賞の受賞経験のあるアルバイトをしている女性が、文壇でのし上がっていく過程を描いたもので、読書好きなら誰もが知っている山の上ホテルに自主的にカンヅメになり創作に励もうとする、主人公にとって恒例のイベントで宿泊した際の偶然から始まる。相互に影響を与え合って自分の意向を通そうとする登場人物たちは人間の怖さを思い起こさせつつも、本当の悪人はいないというところが、読後に暗い気持ちを残さない。
文学賞にまつわる政治というのは、最近はよく聞く話で、ソーシャルネットワーキングの発達によって、関係者や不遇な人たちが暴露する面もあるもかもしれない。なので、文中に登場する芸能人の出来レースや選考委員の好悪に左右される運命というのも、ああ、と思わせられる。そんな現実的なところと、主人公の機転や「そこまでやる?」という様々な行動の非現実的なところが、素晴らしいバランスで配置されている。一気に読んでしまう。
しかし、最後の一幕。ここまでの執念を思いつく作者はどんな人なんだろう。本書の主人公が不思議な関係を築く作家から、バックグラウンドが見えない、と言われていたけれど、それは作者に通じるものがあるかもしれない。