物語 英語の歴史
「はじめに 世界共通語」に考察されている通り、言語の重要性をランク付けるということは難しいけれど、英語がある程度の影響力を持った言語であることは確かだろう。本書は、ケルト人の移住から始まるブリテン諸島における英語がどのように形成され、国際的な影響力を持ち、国際語となった英語が現在どのように変化しているか、といった歴史が書かれている。英語史というと、無味乾燥な資料からの引用を羅列しているかのような予想をしてしまいそうだけど、このミステリー作家による英語史は極めて面白い。
豊富な資料の紹介もあり、他言語話者の侵略や支配を受けて外来語を吸収しながら発展してきた英語の歴史と国際化に伴いさらに外来語や外国語起源の言葉や新語・造語を増やしながら進化している英語を実際の英文でも見ることができる。
外来語や新語・造語の登場、言葉の変化については、日本語も含め多くの言語において問題視する人がいるけれど、「英語はそれぞれの新しい激動に助けられて、今日のような姿にまで発展してきた。おなじように、英語は将来、制御はおろか予測さえできないような形で発展していくことだろう。英語はそれを母国語とする人たちのあいだで、いわば内的に変化するだけでなく、自分たちのことばとして英語を利用しているアジアなどの地域の人々によって、外的にも姿を変えていくだろう」と書かれているように、ひとつの言語が多様な影響や進化によって豊かになる姿を見ると、それも面白いと思うのではないだろうか。これは言語だけでなく、海外での創作和食のように、色々な文化に言えそう。
それから、ときおり英語の綴りと発音が対応していないことに不満を示す人がいて、本書にも出てくるけれど、この歴史に触れると、その対応していない綴りと発音こそ面白い、という気になるので是非ともお奨めしたい。おそらく、綴りと発音を完全に対応させるということは、日本語から漢字を排除するようなものだと思う。便利にはなるけれど、喜びが失われる、ような。
なお、第Ⅴ章に紹介される辞書編纂の大事業については、こちらもお奨め
博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)
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