CoffeeAndBooks's 読書日記

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流れる

 この季節になると、より一層いいですよね。

 

 幸田文さんは断筆宣言をして置屋に住み込みで働き、その経験を元に『流れる』を書いたらしい。そのせいか、芸者の日常の描き方がとても細かくて愛情を感じる。

 

 彼女の観察眼が素晴らしくて、「あんた色が白いねえ」と主人公の女中が言われたときに続く「白いというのは赤みが残っていることなのよ。どこもかしこも白いのはそんなに白いというんじゃない。ここの女たちは商売だからみんな磨いた肌はしているけれど、素顔は白いも黒いもどっちもみんな一トべたの色をしている。三十過ぎて頬に赤みが残ってるなんて人は一人もいない」という台詞は、なかなか出てくるものではないと思う。

 

 それから、置屋の主人が調子の外れた不愉快な音を鳴らして三味線を稽古するところ、小説だから音が聞こえないのにいやな気分が伝わってくる何ともいえない描写。

 この稽古の場面あたりで佳境を迎え、ちょっとした事件が起こりつつも平和に何となく過ぎていく日常が収束に向かっていく。この流れもとてもあっさりしているけれど、印象に強く残る。

流れる (新潮文庫)

流れる (新潮文庫)