逢えない夜を、数えてみても
ピアノの調律師と自動車の整備士のカップル。とても良い関係でありつつ、主人公は中年男性にも心惹かれ、という良くありそうな始まりだけど、後半の展開は予想を裏切られ、面白く読み進めた。最期の結論も少し驚いた。男女どちらの立場に立ってみても、その判断は自分だったらできないなと思うけれど、だからこそ読んでよかった一冊。
随所に差し挟まれるこだわりの車や靴に超高価なコーヒーといったアイテムがおしゃれな雰囲気を醸し出す一方で、甘糟りり子さんの文章は全体的に良い感じの湿度を感じる。官能的というか。読むまでに少し熟成させてしまったけれど、書中に登場するブランドのブティックで行われていたタイアップイベントのトークショーで、LEON創刊に参画していた編集者が印象に残った個所を朗読しながら赤面していたことを思い出す。