バイス/VICE
まず、やっぱり政治家というのはファミリービジネスなんだな、という感想。ちょっとやんちゃなエール大学ドロップアウトの若者が、女性であるために政治家にも社長にもなれないと嘆きながら夫に夢を託そうとする妻の内助の功を受けて、政治の世界で頭角を現す。そして、一度は政界を退き大企業のCEOになるも、ブッシュ氏のrunning mate(副大統領候補)として政界に返り咲き、副大統領になるだけでなく、副大統領の権限を大幅に拡大し、イラクとの戦争、捕虜に対する非人道的な扱いなど、法解釈を使って進めていく。
もちろん、チェイニー副大統領にも彼の正義があって、彼の正義を実現するにはブッシュ大統領は役不足だった側面もあるだろうし、嘘を入れて世論を操作することも多くのアメリカ人の命を守るために必要だったことなのかもしれない。それでも、見終わった後の気持ち悪さ。パウエル氏も反証可能な情報の混ざった報告を国連で行ったことは、最も苦痛だった出来事とのちに語ったそうだけれども。
この映画は、権力に上り詰めていく過程でのチェイニー氏の立ち回りと、いかにアメリカが戦争に向かっていったか、という客観的情報が描かれている一方で、チェイニー氏がなぜ戦争を選んだのか、といったところは語られない。チェイニー氏自体が自分を語らない、存命中の人物ということもあって、難しいのかもしれないけれど。ただ、さすがに若い時分に妻からかけられた発破だけで(フェイクのエンディングが一瞬流れたあとの)後半には行きつかないように思うので、何かきっかけになる出来事などあったのではないかと想像。いかにも政治的思想のなさそうなインターン生が、どんな内部変化を経てイラク戦争に邁進していったのか、とても気になる。
ちなみに、メイクアップで受賞するだけあって、登場人物はすべて実在の人物にかなり似せて描かれていたこの映画。なのに、ライス氏だけが顔立ちは似ているものの、表情が自信なさげだったことも妙に気になった。もしかして、強面は世間が勝手に持っていたイメージなんだろうか。
策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」 (朝日選書)
- 作者: バートン・ゲルマン,加藤祐子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/10/08
- メディア: 単行本
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