CoffeeAndBooks's 読書日記

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「国語」から旅立って

 日本語がネイティブで、日本語で大学院までのほとんどの教育を受け、日本語の小説やエッセイを書く作家である台湾人の温又柔氏。そんな彼女が、「国語」をどのように捉えたか、を様々なエピソードを通じて語る一冊は、とても素晴らしい読書体験につながった。

 故郷の言葉がネイティブでないことの葛藤、リービ英雄からの薫陶、日本語による創作の自由さとの出会い。日本語の名前を持つ主人公を配置した創作から、中国語の名前を持つ主人公を配置した創作への移行。日本語と中国語の間だけでなく、台湾という国家についても。

 台湾は中華民国という国であると同時に、中国人民共和国(PRC)にとっては中国の一部と認識される地域でもある。著者が故郷の言語である中国語を学ぶために上海に留学するエピソードもあらためて考えさせられる。ヨーロッパの一部の分裂した国家では言語も分離したのに対し、台湾とPRCの中国語は文字と一部の語彙や表現が異なるのに同じ中国語と呼ばれる点が興味深かった。こうした背景も双方の国民の認識に影響を与えるものなのか、勉強してみたいところ。

 それから、私の周りの中国系・韓国系の人たちも、ときどき言われている、「日本人に見える」の言葉についても。特に、この言葉、日本語力の高さを称賛するだけでなく、日本人に見えるから仲間として受け入れられるとか、そんなメッセージを含んでいることが時にあって、傍から見ていても複雑な気持ちにさせられる。当たり前だけど、当人には複雑な気持ちという言葉では片付けられないもので、ワールドカップのエピソードは心に刺さった。居合わせたときに、何と反応するのが正しいのか、好ましいのか、分かっていなくて傍観者になってしまっているのだけど、もう少し考えなくては。せっかく言語と時間を共有するのだから。 

「国語」から旅立って (よりみちパン! セ)

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台湾生まれ 日本語育ち (白水Uブックス)

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