CoffeeAndBooks's 読書日記

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ハリエット/HARRIET

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 アメリカ軍で最初の女性指揮官として後世に名を遺すハリエット・タブマン。20ドル札の肖像になることも報じられている。なお、ハリエット・タブマンは黒人解放活動でも活躍し、女性参政権運動でも活躍している。5ドル札と10ドル札も女性参政権運動や公民権運動で活躍した人たちが登場する。それが2016年のニュース(実際の新札発行は技術的な理由もあって遅れている模様)だったのに、今のアメリカの状況は前進したとはいえ未だ差別の問題に苦しんでいる。コロナの影響で日本の公開も遅れ、このタイミングで公開。

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 この映画では、南北戦争での活躍よりも、彼女たちが置かれていた状況、自由を獲得するまでの道のり、他の奴隷の逃亡を助ける"Underground Railroad" (地下鉄道)運動の"conducter" (車掌)としての活躍を主に描く。

 メリーランド州の農場で奴隷の子として生まれたミンティ(のちのハリエット・タブマン)は、母やきょうだいと一緒に農場で働く。ミンティの姉妹は子どもの頃に違う所有者の元に売られていく。そして、その後、彼女自身も売りに出されそうになる。売られてしまえば家族とは二度と会えない、と逃走を決意し、奴隷制を廃止しているペンシルバニア州フィラデルフィアに向かう。フィラデルフィア奴隷解放活動家の元に到着したときに、「100マイルの道のりを一人で」と驚嘆されていたけれど、Google mapsによれば歩いて50時間くらいの道のり、一日中歩くなんて無理なので、数日はかかる距離だ。途中で荷馬車に忍び込んだり、手助けしてくれる人たちを頼ったりはするものの、大変な道のりであることは容易に想像できる。

 実在の人物に関する話なので、ネタバレは済んでいるようなものであるけれど、農場での奴隷の扱いや、その後の奴隷解放活動を始めたハリエット・タブマンの救出活動での奴隷狩りを見ると、きわめて非人道的な扱いがされていたことがわかる。

 それ以上に印象に残ったのは、被差別者同士の境遇の違い。フィラデルフィアでハリエットを保護する下宿の主人マリーは自由黒人で、奴隷として扱われた経験も逃走した経験もない。出会った日に着の身着のまま逃走を続け汚れているハリエットをからかってしまい、その後に態度を改める場面。実は、私は映画を観る直前にTwitterでバンドエイドが今まで「白人の」肌の色に合わせたバンドエイドしか売られておらず、今になってようやく色のバリエーションを増やそうとしているというニュースを知り、そんなことに思いも至らなかった自分を恥じていた。当然、自由黒人といっても黒人参政権もない当時のマリーと、国内で人種による差別を受ける懸念だけは少ない日本に住む日本人の私を比べることは適切でないけれど、自分自身が置かれていない環境に対する想像力を持つことができる人は少なくて、誰もが無知によって他人を知らないところで傷つけている可能性があると反省していたところだったので、とても苦しい場面だった。

 この映画では、南北戦争そのものはあまり描かれておらず、何人もの人が死ぬものではない。そのため、数人の死が重い。これはネタバレしないほうが良いと思うので触れないようにしよう。

 

 なお、主役のシンシア・エリヴォは、トニー賞ミュージカル部門の最優秀主演女優賞をはじめ、グラミー賞エミー賞ほか主要な演劇賞で主演女優賞を受賞という経歴を持つ舞台でも大活躍の俳優。ところどころで挿入される彼女の歌声も力強く、素晴らしい。

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ハリエット・タブマン—「モーゼ」と呼ばれた黒人女性

ハリエット・タブマン—「モーゼ」と呼ばれた黒人女性

  • 作者:上杉忍
  • 発売日: 2019/03/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)