CoffeeAndBooks's 読書日記

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女帝 小池百合子

 現職都知事の半生を、都知事に近かった人々からの証言と過去の著書や報道情報を基にまとめた一冊。私が物心ついた頃には既に政治家だった方なので、カイロ留学時代やキャスター時代のエピソード等は非常に興味深い。しかし、著者は何をモチベーションにこの本を書いたのだろう。小池氏が人間として難があると言い続け、彼女に対する怨念のようなものは感じるのだけど、告発しなければいけないような疑惑をつかんでいるわけでもなく、謎の秘書について触れはするが結局正体不明のままで筆をおかれている。また、主な情報源は小池氏のカイロ時代の人脈が多く、政治家としての小池氏を知る人の発言が少ないようだ。

 政治家になる人間には、ある程度の自己顕示欲があるだろうし、上昇志向がないと大臣にはなれないだろう。人脈は政治の基本。男性だって女性だって、権力があって声の大きな人の周りにすり寄って、のし上がる。そして、本当に譲れない思想信条のコアと選挙に勝てるかどうかのバランスを観ながら、所属する政党や派閥を決めたり変えたりするものではないかと思う。自民党一筋と盲目的に言える政治家のほうが、政界渡り鳥よりも気持ち悪い。小池氏の政策に関する発言が少し軽いところがあるのは、私も否定はしないが、政治家は国民の声を集約して実現するものである以上、自身の信条だけでなく、時世を読んで求められることをする、というのは、良い面もあるのではないか、とも。

 本書は、カイロで小池氏と同居していた女性からの告発が元で取材が始まったものらしい。ただ、なぜ小池氏が政治家としてふさわしくないのか、その危機意識が分からない。小池氏に対しての私怨があるなら、そこを書いてほしいものだ。著者インタビューでも、『芦屋令嬢のふりをしているが実態は…』と言った発言もあるけれど、もしかして成り上りの女が許せないだけだったりしないか。芦屋といっても六麓荘がすべてでないことは誰もが知っているけれど。特に、土井たか子との女性同士の戦いとなった選挙戦に関する記述で気になったのが、『土井は経済的に恵まれたインテリ家庭で育ち…』のくだり。土井たか子は私も尊敬する政治家の一人で、思想信条に同意するかどうかを別にすれば評価する人が多い政治家だ。その彼女の家庭環境をここで紹介する必要があったのだろうか。また、小池氏に対して民主党が立てた対立候補についても『江端は経歴もしっかりとしており、小池氏よりも七歳若く、理知的な女性』とある。著者の主観的な表現に映るのだが、当時の報道等で使われていた表現なのだろうか。

 なお、本書には『容色が衰えて男に嘲られる中高年女性たちは自分たちを小池に投影』という有権者を馬鹿に仕切った記述もある。私も中年に差し掛かった女だが、小池氏に投影する自分の姿などない。同じ女性として、女性の都知事が誕生すればよいとは思ったし、国政で大臣を務めた政治家ならその力量があるのではないか、少なくとも良いブレーンを連れてくるだろう、とは思った。実際に、今回のコロナ対策にしても、完璧には程遠いが、非常事態宣言に向けた国の焚き付け方など優れたところもあったように思う。

 ところで、カイロ時代に同居していた女性は、いろいろなマスコミ関係者に手紙を送ったが無視された、とある。小池氏を攻撃したい人たちは多くいたのに、どうして食いつかなかったのだろうか。攻撃に使えるほどのネタとは判断されなかったのだろうか。また、この元同居人が所在を明かしたくないと怯えていると言うが、一自治体の長の学歴詐称の証言をするだけにしては、少し極端な気もする。 

女帝 小池百合子 (文春e-book)

女帝 小池百合子 (文春e-book)

 

 ロシアのエカチェリーナ大帝、中国の則天武后、我が国の持統天皇など、女性の為政者たちは、男性の為政者たちと同様に欠点がありつつも、指導力を発揮している側面があるのも事実。しかし、女性の為政者たちは、悪い側面ばかりに焦点を当てられ、後世の評価は貶められがち。

エカチェリーナ大帝(上): ある女の肖像

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女帝エカテリーナ (1) (中公文庫―コミック版)

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