CoffeeAndBooks's 読書日記

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コリーニ事件/Der Fall Collini

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 ドイツの現役弁護士である作家フェルディナント・フォン・シーラッハが原作の、法と正義のジレンマを扱うリーガルサスペンス。感想にネタバレになってしまう部分があるので、事前の余分な情報なく映画館に向かいたい方はここまで。上映している映画館は少ないけれど、とても素晴らしい映画。

 

 この物語を、ドイツ人が描いたことに衝撃を受ける。日本では、戦争に関係する映画というと、我々の被害を語るものか、英雄に関するものが多いけれど、ドイツ映画はドイツの過去に正面から向き合っている印象。そして、立派な人物、良き市民に、過去を遡ると戦時中のナチス協力や戦争犯罪が出てくることを描き、関係者の苦悩を描いている印象。もちろん、過去を美化するものがないわけではないけれど。

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 さて、本作について。主人公はトルコ系の新人弁護士ライネン。資格を得て3か月、ライネンは、殺人事件の国選弁護人を務めることになる。実はその被害者が子どもの頃にお世話になった富豪であり、夭逝した友人の祖父、元恋人の祖父。通称の名前と法律上の名前が異なることから最初は知らずに引き受ける。

 被告はドイツでまじめに働いてきたイタリア人、とされる。検視の結果、かなりの憎悪を持って臨んだ犯行と見え、かつ、凶器や被害者に会った経緯から計画的な犯行と見える。しかし、その動機は被告の口から語られることなく、謎に包まれたまま。

 ある会話を糸口に、被告の過去をライネンは調べ、かつての恩人の過去に行きつく。そして、当時の時代背景を考慮すると正しかった立法によって、法的には正しく正義が達成されなかった事実にも。法廷での法律と正義の議論は、冷静だけど熱い。プロフェッショナルとして、過去に自分が関与した仕事を否定できるか、という観点でも。

 最後に被告のコリーニが選択したことは、これは問題提起のフィクションであるため慎重になったのだろうか。実際、この映画を機にドイツの連邦司法省内で調査チームの立ち上げにつながり、という紹介がされていた。ただ、問題の法律や関係する議論が少し調べただけではよくわからず、残念。これはドイツ語が分からないと調べられないのだろうか。

 

 原作は戦後60年の2011年に発行された。原作者のフォン・シーラッハは、戦犯として服役した元ナチスの将校を祖父に持つ。なお、祖父も"Ich glaubte an Hitler" (ヒトラーを信じていた)という書籍を生前に刊行しているが、英訳・和訳はなさそう。

 この機に原作も読んでみたいところ。原作と映画を比べてみたいのは、被害者マイヤーの最期について。映画では、負い目があったのかなと示唆するような場面があったけれど、これについてどう書かれていたのだろう。