CoffeeAndBooks's 読書日記

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アウシュヴィッツで君を想う

 ユダヤ系オランダ人医師が残したアウシュヴィッツでの経験。あとがきによれば、これは回想ではなく「戦争が終結する前に」「収容所の中で」書かれた文章である。そのため、記録として詳細で、その場その場の会話や感情も含めて伝わるように思う。

 作者は妻とともに収容されており、妻は人体実験の対象を集めた実験棟に収容される。彼女が実験の対象にならないよう、作者は終戦の間際まで手を尽くす。読んでいるうちに、やはり作者とその妻のフリーデルの無事を願い、一喜一憂してしまうけれど、同じように生き延びようとした人たちも大量に命を奪われたことを考えると本当に辛い。そして、収容する側にもそれぞれに感情があり、気まぐれではあるかもしれないが心遣いを見せるところがあり、ナチスを扱う戦争映画でしばしば見せられるような、普通のどこにでもいるような人々が行う残虐行為の恐ろしさを感じさせる。

 

 そして、最後に収録されている家族のあとがき『エディ・デ・ウィンドの生涯』も、重いテーマを突き付ける。収容されている期間、命がけで相手を想い行動していた二人のその後は切ない。経験した出来事によるトラウマも本人を苦しめるし、生き延びた罪悪感も本人を苦しめる。そして、生還した人たちは、生きていくうえで『美談』とはならない選択をするしかないこともある。犯罪や不道徳的なことをしたわけではないけれど、生還者という背景を持つ作者に対する期待を裏切る行為によって非難される、というのも更に残りの人生を苦しいものにしたのではないかと思う。