CoffeeAndBooks's 読書日記

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Kaymak/カイマック

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東京国際映画祭に出展されたマケドニア人監督による『カイマック』。ミルチョ・マンチェフスキといえば、『Before the rain』『Dust』しか観ていないのだけど、時間の交差する不思議な構成が魅力的だった印象と、旧ユーゴ出身ということで地域特有のアイデンティティについて考えさせられた記憶が残る。

しかし、本作は、マケドニアという国の中の、同じマケドニア人同士の格差や代理出産という裕福な人間のエゴが描かれており、どこに行っても同じような問題を人は抱えるのだなと思わされる。もちろん、地域性によって苦しんでいる国でもあるけれど、いま監督が描きたいと思うのはロシア侵攻に伴う危機感でも、緊張するセルビアの問題でもなく、格差である、と。

以下は一部ネタバレ。

本作は、高級アパートメントの上層階に住む裕福な夫婦+妻が連れてくる若い女性と、そのアパートメントの窓から毎日のようにタバコの吸い殻を投げ込まれる家に住む中年夫婦とアクシデントで同居を始める同世代の女性、という男性1人+女性2人の3人2組の物語。二組の生活圏は完全に異なり、交差することはない。唯一の交差が、投げ込まれるゴミ。

個人的に印象に残ったのは、上層階の生活では胸にフォーカスがあたり、地に足のついた生活をする3人の生活では足にフォーカスが当たっているように見えたこと。前者は、出産が一つの重要なテーマでもあったので、その象徴かと思ったけれど、後者は監督によれば大きな意味は(少なくとも意識的には)ない、ただ、意識していないからといって意味がないのではなく、何か心のなかに意味があるかもしれない、ということ。

なお、このカイマックというのは、濃いバターのような、クリームのようなスプレッドで、バルカン半島では広く食べられるソウルフード的なもの。そして、カイマックを集めるというのは、物事のよいところだけを取ろうとする行為、であるらしい。これを聞くと、因果応報の寓話的な映画。ではあるけれど、因果応報ですっきりするというよりは、なんとも切ない気持ちになる。これは、どんな嫌な人間に見えても生活レベルで接したら嫌なやつはいないよ、ということなのか。映画祭、せっかく監督に質問をぶつけられる機会なわけで、Q&Aセッションはもう少し長いといいな。

 

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