CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

住友銀行秘史

 元住友銀行取締役まで上り詰め、その後楽天の副会長を女性関係の問題で退任というなんだかすごい経歴の著者(ゴーストが入っているとどこかのインタビューで言われていたけど)が、戦後最大の経済事件といわれる「イトマン事件」に関する行内のいざこざや政治に関するあれこれを当時のメモとともに振り返るというもの。といっても、大事件の裏に潜んでいた怪文書事件の真相告白に過ぎないという印象。本気で裏側を暴いたら実名では書けないだろうし。

 ただ、銀行という組織についていろいろと面白い読み物ではあるかもしれない。のっけから主な登場人物の出身大学と入行年を紹介するところから始まり、さすが銀行。実際、都市銀行の方は名前を出すと「ああ、何年入行の方で~~」と返されることがあるからびっくりする。さらに、男性同士の嫉妬の入った人物評も。

 しかし、著者の自己陶酔が激しい独白から、優秀なバンカーの使命感による行動、という印象を持たせようとしているけれど、ぜひとも主な登場人物の皆さんに覆面座談会で感想を教えてもらいたいもの。 

住友銀行秘史

住友銀行秘史

 
住友銀行暗黒史

住友銀行暗黒史

 

 

愛をこうひと

 下田治美の小説『愛を乞う人』のコミカライズ版。

 ただ理不尽に虐待される印象のあった小説版に比べると、母親が自分の置かれている状況に怒り落胆し、原因を子供においてしまったこと、という虐待に至る背景が描かれているように思う。原作の方が主人公の心の葛藤とトラウマからの脱却に焦点を当てている一方、漫画の方が母子の関係に焦点を当てている印象というか。だから、番外編『闇がひらくとき』につながったのかもしれない。ただ、番外編も含めて読むと、漫画の方は、虐待をする側に理解を示しすぎなのではないかと思うのも事実。親も人間で成長を続けるものだし、変化もするだろうけど、心の整理はそんなに簡単なものではない。とはいえ、怒りや恨みを持ち続けることは当人にとっても良いことではないけれど。とても複雑な気持ちのまま読み終わる。 

愛をこうひと (ぶんか社コミックス)

愛をこうひと (ぶんか社コミックス)

 

  

愛を乞うひと (角川文庫)

愛を乞うひと (角川文庫)

 

 

 

わたしは、ダニエル・ブレイク/I, Daniel Blake

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 40年間、大工として働き税金を納めてきた主人公のダニエル・ブレイクが心臓病になり、就労ができなくなる。福祉に頼ろうとするものの、健康状態による就労不可と認められず雇用手当に切り替えると今度は求職活動が求められる。働けない体なのに。

 それだけでも福祉って何だ、と思うのに、彼が福祉事務所で出会ったシングルマザーのケイティ。彼女は子どものために、そして親切に色々と助けてくれるダニエルにせめてものお礼と食事を振舞うために、食事をとらないことが多く、フードバンクの配給所で受け取ったパスタソースを思わずその場で開缶して口にしてしまう。さすがに実話ではないと思いたいけれど、完全に想像力で生み出せるシーンでもないだろう。その瞬間のケイティの姿には打ちのめされる。

 ダニエルやケイティを囲む世界は小悪党はいても基本的に良い人たちばかりで、お互いに助け合おうとはするけれど、そうはいっても誰もお金や力を持っていない。生きていればお腹も空くし、生きるのに必要なものは食料だけでもない。そんな中で福祉が機能しなければ、生きていくことは大変すぎる。

 この映画を観ると有料入場ごとに50円がチャリティになり、一部の映画館で賞味期限が1か月以上ある缶詰や保存食の寄付も可能(映画館により対応内容が異なるので事前確認をお奨め)。私たち個人ができることは少しではあるものの、すぐに取り組めることを提示してもらえるのはありがたい。

danielblake.jp

I, Daniel Blake (English Edition)

I, Daniel Blake (English Edition)

 

  

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

 

 

無私の日本人

 貧しい宿場町を救うため、お上にお金を差し出し、利息で町を救おうとした商人・穀田屋十三郎とその仲間たち。映画『殿、利息でござる!』の原作でもあるけれど、映画予告のドタバタした雰囲気はなく、全体を通じて悲壮感が漂っている。しかし、この十三郎の気持ちの強さはすごくて、きっちり無理難題と思われた金額を用意して、周りのサポートも得て悲願を成就させる。それにしても、これだけの偉業を誇ってはいけない、子孫は常に町の集まりでも末席に座るべしと言い残すのはすごいこと。

 武士道が武士だけのものでなく、江戸時代の町人・農民の矜持が素晴らしかったというエピソードは『蜩ノ記』における源吉を思わせる。幸いにして、十三郎とその仲間たちは命を捨てることなく偉業を達成できたけれど、その覚悟は並大抵でない。本当に私心があったらできない。

 

 ほかに、市井の儒学者・中根東里や尼僧・大田垣蓮月に関する評伝も収録されているけれど、後世に名の残らなかった偉大な人々を紹介しようという意欲は素晴らしいものの、少し情報量が異なるため本としてのバランスは崩れたかもしれない。ただ、私心を持たず人を利する生き方をした清々しい昔の日本人を知ることができた点に感謝の一冊。 

無私の日本人 (文春文庫)

無私の日本人 (文春文庫)

 

 

マリコ、カンレキ!

 長距離移動があったので、駅の書店に寄ってみたところ、林真理子フェア。ちょうど未読の文庫2冊を見つけ購入。

 まず、びっくり。林真理子さんが還暦を迎えた時期のエッセイが、もう文庫本になっている。やっぱり最近の60代は元気。ananのエッセイと週刊文春のエッセイで重複する交流関係やイベントも多少はあるものの、ananは出版業界やファッション関連の内輪ネタが多く、週刊文春では少し広めに文化人や実業界との交流や日常生活に関する話が多い印象。ananは月刊だったと思うけど、週刊誌の連載でこれだけのネタが出てくるなんて、ものすごい活動量。しかも、これだけ忙しそうなのにNHKの朝の連ドラも見ているなんてすごいことだ。

 全体的には『マリコ、カンレキ!』の方が某有名芸能人と経歴の怪しい女性の献身的な愛を描いた作者へのメッセージやメディアへの突っ込みや某人材会社の社長とのやり取り、チャリティオークションなど面白い話が多かったけれど、『突然美女のごとく』ではあちゅう氏と思われる人物との食事会の話や美には暇が必要という発見などがあって、面白い。そして、『マリコ、カンレキ!』巻末の花子とアン』脚本家との対談も良かった。どうにも柳原白蓮という人には良い印象を持っていなかったけれど、今度いろいろと読んでみよう。

 

マリコ、カンレキ! (文春文庫)

マリコ、カンレキ! (文春文庫)

 

 

突然美女のごとく (マガジンハウス文庫)

突然美女のごとく (マガジンハウス文庫)

 

 

Mon Roi

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 主人公がエキセントリックで完全に感情移入はできないものの、場面場面で共感して切ない気持ちになる映画。

 『ベティ・ブルー』を引き合いに出して紹介されるだけあって、情熱的で、不安定な愛の物語。弁護士のトニとレストランを経営するジョルジオはクラブで出会い、惹かれあい、子供を持ち結婚するも、うまく行かない。理屈で考えると、一緒にいても不幸になるタイプの男性であるジョルジオ。精神を病んだ元恋人の世話を焼きつつ、ストレスで不安定になった身重の妻に別居婚を申し出たり、借金のかたに妻の元々の財産だった家具まで差し押さえられる夫なんて、一緒にいても幸せになれる気がしない。色々と理由を付けて関係の修復を試みるトニーも、やがて別れを何度か切り出す。でも、今度はジョルジオが離れない。

 落ち着いた生活を持つこと、妻や子に責任を持つことの重圧から薬や酒、遊び仲間に耽溺する気持ちは分からなくもないけれど、身勝手なジョルジオ。しかし、とても魅力的であるのも事実、と見えるようにヴァンサン・カッセルの演技と佇まいは抜群の説得力を持つ。そして、時に興奮をぶつけ叫んだり泣いたりするトニーの終盤の表情は、何とも言えない人の複雑な気持ちを感じさせる。理屈を超えて人に抱く感情の正体は分からないけれど、そんな気持ちが伝わってくるようで素晴らしかった。

 

 

江戸の備忘録

 昨年、ヒットした映画「殿、利息でござる」の原作『無私の日本人』の作者による江戸の教育事情などを含む歴史雑学が詰まった一冊。古文書にあたり出典を明らかにしつつ分かりやすく読みやすい文章で書かれているので、安心して読めるし、仕入れた情報は思わず誰かに話したくなる。意外なことに多かった寺子屋の先生に占める女性の率の高さ、一方で奥屋敷で行動の不自由な女性の犬の溺愛ぶりを示す狆の墓など興味深い。年賀状の原点は年始のあいさつ回りで置いて帰った名刺というのも、『とりあえず名刺置いて帰ります』というような営業につながっているのだろうか、と考えると面白い。

 興味深いエピソードだけでなく、鈴木今右衛門の清貧エピソードなどは思わず涙が出てしまう。飢饉に際して人を救うために田畑・家財道具を売り払った夫に晴着を売って答える妻、そして最後には震える飢えた女の子を救うために自分の娘に着ている二枚綿入れのうち一枚を脱いで渡すよう促し、娘は快く応じる。それこそが夫婦が娘に伝えようとしていたことだった、と。私も見習わなくては。 

江戸の備忘録 (文春文庫)

江戸の備忘録 (文春文庫)

 
殿様の通信簿 (新潮文庫)

殿様の通信簿 (新潮文庫)

 
江戸の家計簿 (宝島社新書)

江戸の家計簿 (宝島社新書)