CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

小説

Flowers for Algernon

野口悠紀雄氏の『「超」英語独学法」で『アルジャーノンに花束を』が元々は短編であったことを知り、また、長編化されたことにより余計なストーリーが混入して密度が低くなったと書かれていたので、”The Science Fiction Hall of Fame, Volume One”に収録さ…

血も涙もある

正しさを盾に誰かを糾弾する人には絶対にならない山田詠美。今回のテーマは不倫。料理研究家、その夫、そして料理研究家の助手であり夫の不倫相手の3人が交互に語り手となる構成。誰もが事情を持っていて、一方的な悪者はいない、道徳的な倫理で誰かの関係を…

デトロイト美術館の奇跡

つい最近の実話に基づく小説。主な登場人物は3名いて、うち1名のみが実名の実在の人物ロバート・ハドソン・タナヒル。このタナヒル氏は大富豪で近代美術コレクターとして名を馳せ、デトロイト美術館の支援者であり、死後にも大量の美術品を残した人物。そ…

私にふさわしいホテル

最近、気に入って毎週のように通っている日比谷シャンテ3階の書店HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて、『山の上ホテル+帝国ホテル+カンヅメ』と書かれた3題噺の文庫。手に取ってみると、割と好きだけど全作追い切れてはいない柚木麻子氏の未読の一冊。思わず…

この世にたやすい仕事はない

やっぱり時には書店に足を運ばないと、意外な出会いは期待できない。意外な出会いには、しばらく読んでなかった作家の新作も。津村記久子氏は、2009年の芥川賞作家。すっかり読んでなかったけど、読み始めた瞬間に懐かしい気持ちになる。読み心地の良さが印…

つみびと

何かで彼女は締め切りのある仕事はしない、と聞いた記憶があって、いかにも山田詠美だなと思っていた。そんな山田詠美氏の最新作は、意外性の塊。日経新聞夕刊の連載、それも取材に基づくネグレクト死が題材。 これまで、エッセイを通じて愛情に満ちた家庭で…

潔白

犯人とされた人物の死刑執行から15年後の再審請求。当然、それだけの理由があっての再審請求なので、過去の失敗を認めるわけにいかない検察は、策を弄して対抗する。 本書は犯人捜しの要素もあるけれども、犯人捜し以上に、冤罪によって死刑になってしまった…

幻の女

翻訳の例として挙げられることも多い書き出し”The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour.” (夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。)はよく覚えているし、結末に驚いた記憶はあるの…

妻への家路

映画の衝撃が忘れられず原作も。 原作は600ページを超える大作で、映画になるに際して、結婚に至る経緯や逮捕、強制労働といった部分は省かれ、家族の関係と再会だけに焦点が当てられている。なので、原作は映画とは雰囲気も大きく違う。 特に、原作では…

珠玉の短編

『アニマル・ロジック』の頃の圧倒的な感じはなくなったけれど、やっぱり面白い。 表題作は期待を裏切るもので、スプラッタを得意とする作家が『珠玉』という単語に取りつかれるもの。世間的な山田威詠美のイメージとはちょっと違うけれど、エッセイで読んで…

BUTTER

月並みな感想だけど、すごい小説。テンポはゆっくりと、でもぐいぐいと引き込まれる。主人公の記者 里佳と一緒になってカジカナに惹かれ、何とも変な気持ちになってしまう。 世間をにぎわすニュースに着想を得たストーリーは多くあるけれど、これはひとつ新…

独立記念日

短編集。ある短編の登場人物が次の短編の主人公になる構成。そして最後は、最初の短編の主人公のその後、という面白い構成。 シチュエーションは様々だけど、基本的にはコンプレックスや悩み・仕事の躓きといったものを主人公が克服していくもので、前向きな…

無私の日本人

殿、利息でござる! 発売日: 2016/10/05 メディア: Amazonビデオ この商品を含むブログ (1件) を見る 貧しい宿場町を救うため、お上にお金を差し出し、利息で町を救おうとした商人・穀田屋十三郎とその仲間たち。映画『殿、利息でござる!』の原作でもあるけ…

国盗り物語

最近、進められて読み始めたら止まらず一気に読んでしまった。 美濃の蝮 斎藤道三が油売りから一国を手中におさめ、娘の嫁ぎ先である織田信長が天下を取り、娘のいとこにあたる明智光秀が謀反を起こし3日天下の後に敗れるまで。 近年の研究で、油売りから国…

恋人たちの冒険

子供のころに読んで印象に残っていた『鳥にさらわれた娘』と『あるジャム屋の話』。何となくもう一度読みたくなってキーワード検索したらあっさりと見つかり、読むことができて嬉しかった。一緒に収録されているほかの物語もとても素敵だった。 この『恋人た…

やさしいダンテ<神曲>

欧州的な思考を理解するには必要な知識、教養とは言われるものの、いきなり手を付けると前提として要求される知識、教養も生半可でない超大作である『神曲』。少し仕事に余裕ができてきたので少しずつ読もうかなと思うけれど、難解な部分も多いので、まずは…

逢えない夜を、数えてみても

ピアノの調律師と自動車の整備士のカップル。とても良い関係でありつつ、主人公は中年男性にも心惹かれ、という良くありそうな始まりだけど、後半の展開は予想を裏切られ、面白く読み進めた。最期の結論も少し驚いた。男女どちらの立場に立ってみても、その…

トヨトミの野望

どこかの戦国ゲームのようなタイトルだけど、経済小説。名古屋にある巨大自動車メーカーをモデルにした小説というか、仮名にしただけのノンフィクションというか。技術VS経営、創業者VSプロ、ビジョンVSビジネス、と両立も当然できることながら対立しがちな…

君たちはどう生きるか

主人公コペル君は少し幼い(実際は中学生の設定なのに最初に読んだときはカツオ君とマスオさんくらいの関係を想像しながら読んでいた)けれど、頭が良くて心根も優しい少年。そんな彼が父親代わりとまではいかないものの、何かと面倒を見てくれているおじさ…

顔のない裸体たち

先日に引き続き、平野啓一郎。とはいえ、仕事もあるので作者比で少し短めの作品から。「顔のない裸体」はモザイク処理された(いかがわしい)画像の登場人物。 地味な教師のミッキーと冴えない公務員のミッチーがネットで知り合い、野外での露出行為に及び、…

マチネの終わりに

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。」 この文章に出会えたことは幸せなことだと思う。良い意味でも悪い意味でも、後から起こることが過去に影響を与えて過去に対する人の感情を変えていく。…

天平の女帝 孝謙称徳

孝謙天皇に仕えた女官の和気広虫の視点から孝謙天皇の死と遺した成果について、明らかにしていく物語。女帝は過去に何人もいたけれど(持統天皇や推古天皇)、唯一、立太子を経て天皇となった孝謙天皇については、道鏡の重用を批判的に描かれている文章を過…

本日は、お日柄もよく

楽園のカンヴァス(楽園のカンヴァス - CoffeeAndBooks's 読書日記)を読んで以来、気になっている作家。 今回はお仕事小説ということだけれども、説得力のある小説だった。設定が現実世界からの借用だから現実味があるというだけではなく、たとえば14章で主…

下流の宴

主人公の由美子の下世話な選民意識が素晴らしく描かれているけれど、これは成功した一方でコンプレックスから開放されていないことを各種エッセイでも明らかにしている作者ならではだろうか。 人との比較をして上流・下流というのも何とも嫌な感じだし、得ら…

楽園のカンヴァス

絵を描くことに関する物語かと予想して手に取り読み進めたところ、「絵」そのものに関するミステリーだった。史実に基づくということだけれども、どこまで本当なのか美術に関する知識のない私には分からない。しかし、それでも十分に楽しめる分かりやすさを…

冬姫

過去に衝撃を受けた蜩の記とは趣が異なり、戦国の女性を描いた一作。「女いくさ」という言葉を使って、内助の功と女性同士の勢力争いをきれいに表したような。ただ、主人公の強さが少し分かりにくい。純粋な心を持って余計な野心を持たないことは美しいかも…

貨幣の鬼 勘定奉行 荻原重秀

学校の歴史で習う新井白石といえば、儒学の教えをまとめた学者であり、5代将軍綱吉の悪政により傾いた幕府の政治を儒教精神で改革する正徳の治を主導した立派な人物のように映るが、実際のところ正徳の治は抜本的な改革には至らず、次代の享保の改革に引き継…

賢者の愛

はじめて読んだ山田詠美の小説は「蝶々の纏足」で、そこでは自分が愛されることを当然の権利として疑わない少女と大人びた少女の歪んだ友情と反発が何とも美しく描かれていたことを思い出す。 「賢者の愛」は「痴人の愛」を下敷きにしているものの、影響力を…

蜩ノ記

こんなに素晴らしい小説を、出版から2年も知らないまま過ごしていたことが悔やまれる。 主人公 檀野庄三郎は、不始末のため切腹となるところ、ある任務と引き替えになった。七年前に別な事件により「十年後の切腹」と「藩主の家譜編纂」を命じられた元郡奉行…

透明人間の納屋

失踪事件の謎解きに必要な材料を出すと、最後の手紙の衝撃が軽減してしまうのはわかるけど、密室トリックについてはちょっと納得のいかない部分あり。まあ、占星術殺人事件 (講談社文庫)からそういったお約束の部分に沿ってはいない作者。それにしても今回の…