アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち/The Eichmann Show
1940年代後半に行なわれた極東軍事裁判から15年ほど後に行なわれたアドルフ・アイヒマンの裁判を世界に放映したチームを描いた映画。去年から引き続き第二次世界大戦を描く映画が多いけれど、「顔のないヒトラーたち」をはじめ、戦犯の異常性や残虐性を描くことよりも、普通の善き市民・善き親たちが異常な行為や残虐な行為に手を染める過程や、思考停止によって歯止めが利かなくなっていく過程を描くことに力を入れているように見えた。
本作では、実際の映像も多く用いられており、その中には収容所の様子や虐殺の被害者など正視に耐えない映像も含まれる。実話に基づく話ということなので、途中で席を立ったクルーたちの反応も実際にあったことなのだろう。しかし、アイヒマンはそれを見ても取り乱すことがない。映像監督は誰もがアイヒマンになり得ると考え、何が人をモンスターにするのかを明らかにするとともに、アイヒマンが一般的な普通の人間であることを映そうとしているのだけど。そして、ショーとしてのインパクトを求めるプロデューサーとの衝突も発生する。ただ、チームワークにおける課題にはそれほどの時間を割いておらず(それをやると映画はぐたぐたになっただろう)、アイヒマンの姿と被害者の証言を中心に構成される。そして、このショーは世紀の犯罪者の実像を世界に報道するだけでなく、被害について語っても絵空事だと片付けられていた被害者たちが再び語り始めることができるきっかけを提供するという大きなインパクトを残す。特に、被害者たち(survivor)が生存したことに対してネガティブな見方をされることもあったというユダヤ人社会においては、非常に意義があったことなのだろうと思う。ほかの戦争でも生存者が生存したことによってネガティブに扱われるということがあったのか、知識がないので分からないけれど。
それから、アイヒマン裁判について驚いたことは、イスラエルは被害者がアイヒマンを裁くことについての透明性を裁判の公開によって確保しようと考えたということ。これもイスラエルの置かれる特殊な事情もあるのだろうと推測するけれど、極東軍事裁判では語られなかった視点ではないかと思う。
- 作者: ハンナ・アーレント,大久保和郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1969/02/20
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