CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

トヨトミの野望

 どこかの戦国ゲームのようなタイトルだけど、経済小説。名古屋にある巨大自動車メーカーをモデルにした小説というか、仮名にしただけのノンフィクションというか。技術VS経営、創業者VSプロ、ビジョンVSビジネス、と両立も当然できることながら対立しがちな事項が凝縮させられていて面白い。巨大な組織のメカニズムを経営の目線から追体験できることはとても有意義。

 そして、創業家の若様の成長物語としても面白い。本当に情けない若様(美人局にあって拉致されたり、若手の陰口を根に持ったり)であるけれども、先祖の創業した企業への誇りや自動車が好きという気持ちで成長を見せる。なかなか自分より優れたプロを評価できないけれど、自分が経営をしてみて実感することも多いはず。私自身、ここまでのレベルは到底ないけれど、管理職になると過去の上司のお小言やなんとも思わなかった上司のすごさがわかるといったことがあったので、少し身近に感じてしまった。

 今も巨大企業としてグローバルの地位を保つ企業が舞台の物語なので、続編(あるなら)が楽しみ。

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業

 

  

住友銀行秘史

住友銀行秘史

 

 

死者の書

 完全な漫画化ではなく、ガイドブックのようなものを目指して描いたと作者は語るけれど、その試みは成功だと思う。世界観に圧倒され、原作を読みたいと思った。

 女帝孝謙天皇時代の名家の女性である藤原南家の郎女が写経をするうちに不思議な力に誘われ大津皇子(この物語では滋賀津彦)との邂逅と春分秋分の日だけのの俤びとの降臨を得る。滋賀津彦の思い人は耳面刀自ということで、郎女の先祖にあたり、何かの縁があったということのようだ。 なぜ、俤びとが見えるのか、は分かるような分からないような。これは原作を読むべきなんだろう。

 しかし、蓮糸で編んだ曼陀羅、一度見てみたい。

 

  

死者の書・身毒丸 (中公文庫)

死者の書・身毒丸 (中公文庫)

 

 

君たちはどう生きるか

 主人公コペル君は少し幼い(実際は中学生の設定なのに最初に読んだときはカツオ君とマスオさんくらいの関係を想像しながら読んでいた)けれど、頭が良くて心根も優しい少年。そんな彼が父親代わりとまではいかないものの、何かと面倒を見てくれているおじさんと交わすノートのやり取りから、子どもに哲学を伝えるという趣旨の一冊。でも、大人が読んでも十分に面白い。

 序盤のすべての社会的活動が連鎖していることに気付く件やコペル君が豆腐屋さんの子と仲良くなる件もいいけれど、上級生に目を付けられた同級生が殴られるところで目を伏せてしまうところは大人になって読んだ方が共感してしまうかもしれない。ついつい長いものに巻かれてしまうことはあって、後悔して自己嫌悪に陥るけれど、それでは何も状況は変わらない。謝ったら許してもらえるようなことばかりではないけれど、それでもいいから行動することも大切。このおじさんは、話せば必ず分かってくれる、というようなことは言わない。でも、何もせずにコペル君が後悔しないようにガイドしてあげる。こんな大人にならなくては。

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

 

  

職業としての編集者 (岩波新書)

職業としての編集者 (岩波新書)

 

 

ダーリンは70歳/高須帝国の逆襲

 漫画家 西原理恵子氏と交際宣言の高須克哉氏によるエッセイ。なんと、一度は書店に並んだのに絶版になっていたらしい。言葉狩りか。そして、Amazon Kindleにて青空文庫のような表紙で公表されている。

 高須氏のことはお金持ちというのと、金に糸目を付けず面白いことや良いことをするすごい人、という印象だけだったけれど、このエッセイを読んで素敵な人なんだなと思った。家庭人でないのは明らかだけど、亡くなった奥さん(彼女もお医者さん)に対する尊敬の気持ちや愛情を感じさせる記述はとても印象的。目下大恋愛中の女性がいるときに、自然にそんなことを言えるのは人徳じゃないだろうか。現在の彼女に対する不満を吐露する材料でもなければ、現状を持ち上げる材料でもなく、中立的に扱えるのは素敵なことだ。そんな人だから、西原氏の亡くなった旦那さんについても看取ってあげるように、と言えたのかもしれない。

 そして、西原氏の愛される暴君ぶりもほほえましい。高価なプレゼントはぞんざいに扱うのに、愛犬のために高須氏が分けてくれるパンは大切に扱う。何てかわいらしい。

 露悪的な芸風で有名になった方が純愛ぶりを隠さず、しかもそこにあざとさが見えないというのはすごい。

 

通訳ガイドというおしごと

 試験対策本は多いけれど、どうやって仕事にするか、という本は少ないような気がする通訳ガイド。序盤にも紹介される通り、やはり通訳ガイドで食べていけている人は多くはない様子で、専業でやっていくにはかなりの営業努力が求められそうだ。

 この書籍では、代理店からの仕事の獲得や自分自身のプロモーション(フェイスブックや名刺の活用)、ガイドコースの組立て方と実例などが紹介されていて、これから参入する人には参考になりそう。時間厳守やまずは狭いエリアでも得意分野を作る、といった教えはプロフェッショナルサービス全般に共通するところであり、すぐに通訳ガイドとして独立する予定がなくても、色々と勉強になりそう。

 

手紙は憶えている/REMEMBER

 認知症の進む老人が手紙に書かれた情報を元に、アウシュビッツのブロック長に復讐を試みる数日間の物語。たいていの映画は予想を裏切る終わり方をするものだけど、これも同様。それにしてもすごい。人は人をここまで騙せるのかと驚く。

 主人公ゼブは妻の死後、認知症が進んでいて妻の死も思い出せない。眠りから覚めては妻を探してしまう姿は痛々しい。そんなゼブに親友のマックスは妻が死んだら成し遂げると約束していた復讐を実行するための手紙を渡す。手紙に記される名前を変え、過去を隠して生きている復讐相手の候補をゼブが尋ねて行く。他の映画にも共通するけれど、ドイツ軍関係者も戦後は善良な市民に戻り家庭を築いている。それは意外な過去を持っていた登場人物も同様で、家庭を築き幸せな老後を送っていて、完全に普通の人間だったりする。そんな人でも、特殊な状況では人を殺すことができてしまうということも限られた時間の中で描かれている点もすごい。

 

 

 

ジャコモ・フォスカリ

 テルマエ・ロマエが大ヒットしたヤマザキマリ氏による、退廃的な雰囲気の漫画。テルマエ・ロマエはエネルギーに溢れる男性が主人公だったけど、こちらは物静かで翳のある中年男性。戦後すぐの日本を舞台に、ファシズムに祖国でなじむことのできなかったイタリア人学者が住んでいて、三島由紀夫や阿部公房がモデルと思われる作家たちと交流しつつ、カフェの美男子に惹かれていくというストーリー。これから、距離を縮めてカメリアコンプレックスを発動させるのか、それとも、破滅していくのか、続きも気になるけれど、もう3年経って2巻が出たとは聞かないのが残念。

 物語としては設定の紹介が終了したところ、という感じなので、あまり盛り上がらないけれど、少し年をとって、若くて美しい人に対して恋愛ではない複雑な感情を抱くことが素敵に描けていると思った。