CoffeeAndBooks's 読書日記

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美意識の値段

 クリスティーズの日本代表であり、日本古美術の専門家である著者による、美意識と美術品ビジネスに関する四方山話。オークションハウスというビジネスは聞いたことがあっても、富裕層にしか関係のない場所という意識があって足を踏み入れたこともなく、ましてやオークションに参加したこともない身には面白過ぎるエピソードの数々だった。読んでしまえば当たり前のことだけど、美術館も売買をするんだな、とか、仏像の里帰り、とか。そして、オークションは意外と敷居が低い様子。ぜひ、参加してみようと思う。

 美術に関する知識も面白いけれど、何よりも印象に残ったのは、外国企業で働きつつ日本のためのビジネスをしているという感覚。私自身も業界は異なるけれど外資系企業で働き、必ずしも日本市場だけを見てビジネスをしてはいないけれど、どこかで日本にベネフィットをもたらすことができれば、という意識をもって仕事をしている。それは直接の金銭的なベネフィットだけでなく、日本の良い企業が世界でもっとたくさんの人の役に立つ手伝いがしたいとか、日本のポジティブなプレゼンスを高めるために自分は何かできないか、といった意識。著者の山口氏は、海外法人で採用されたスペシャリストとして働きつつ、必ずしも日本に置くことを第一にするわけではないけれど、日本の美術が末永く保存されるために、日本の美を世界に知ってもらうために、と日本を背負って仕事をしているようで、読んでいて熱い気持ちになる。

 そしてもう一つ。サザビーズのシュレッダー事件は美術に詳しくない私でも知っていて当時は驚いたものだが、本書を読んで更に驚いた。これも読んでしまえば当然に思えることではあるけれど、多くの人にとって驚きがあるのではないか。他社のことなので、と遠慮がちな暴露ではあるけれど、それが余計に本当らしく感じられる。これは知識としての面白さ。