CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である

 あらゆるビジネスにサイエンスやテクノロジーが絡んでくる時代、サイエンスやテクノロジーを誰もが避けられなくなる。そして、ビジネスの世界にもう一つ進出しているものがデザイン戦略に代表されるArt。テクノロジーとArtは密接につながっている。ということで、STEAM=STEM (Science, Technology, Engineering, Mathmatics) + A (Art)が重要になると本書は主張する。現存する職業の半分はAIに置き換えられると言われるなかで、AIに使われる側でなく使う側に回ろうと思ったら、少なくともSTEMの理解が必要。『残酷な10年後に備えて今すぐ読みたい本』として、今起きていることや近い将来を予測するうえで参考になる書籍のガイドもあるので、とても親切な一冊だった。

 現時点ではSTEAMは教養レベルには落ちていないので、ある程度新しい物好きであればビジネスの世界で優位に立てるのではないかという気になった。新しい物好きの条件は、どうやら「Perfume」「BABYMETAL」「OK Go」。音楽としてではなく、プロジェクションマッピングを含めた総合アートとして楽しむ。音楽だけだとつい昔はよかったと思ってしまうけれど、YouTubeで見るとやっぱり面白い。その昔、マイケル・ジャクソンが自身のプロモーションビデオを"short film"と呼んで、他のパフォーマーとは圧倒的に異なる世界を見せた時の衝撃に近いかもしれない。なお、ゲームの世界では、ツムツムやパズドラやポケモンGO止まりでこれらをゲームだと思っていてはだめらしい。やっぱり手軽なところだけ試したのでは最先端の技術には触れられない様子。

 一方で、イマジネーション、クリエイティビティ、SFの本質という視点も面白くて、古典的なSFが与えてくれる示唆についても触れられている。星新一ジュール・ヴェルヌを読み返すのも良いかもしれない。しかし、安部勤也の書籍か何かで昔の知識人がたった数冊の書物を読むにも人生が短すぎると嘆いていた話を読んだ記憶があるけれど、そんな時代に比べると21世紀はインプットすることが多いな。

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書)
 

 

 

具体と抽象

 部下がもう少し考えてくれたら、というのは多くの管理職の共通の悩みだと思う。一を聞いて十を知ってほしいというのが高望みだとしても、せめて同じような説明を何度も繰り返したくないと思ってしまう。バックグラウンド(学歴、職歴、経験)によらず、最初から要領よく色々なことが吸収できる人がいる一方で、いつも懇切丁寧な説明をしなければ動けない人がいる。本書を読むと、この違いが腑に落ちる。なぜ、上司と部下の会話がかみ合わないかというと、見えている世界が違いすぎるからだ。見えている世界の抽象度が異なると、上司はいつも言うことが変わっているように見えるかもしれないし、部下は表層的なことしか考えられていないように見えるかもしれない。

 歩み寄るために、具体的な会話に翻訳したり、相手の考え方を推測して合わせることがとりあえずの解決策のようだ。具体的な世界しか見えない人が抽象的な世界を見えるようになるためのトレーニング的な解もあると、私も上司の目線を理解できるようになるかもしれないし、部下たちも悩みが減るような一冊になりそうだけど、そこまでは示されない。かみ合わないもやもやの正体が見えてくるという意味では有用なので、部下への指導や指示に悩みを持つ中間管理職は読んでみるべき一冊だと思う。

具体と抽象

具体と抽象

 

  

メタ思考トレーニング (PHPビジネス新書)
 

 

僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意

 インテリジェンスのプロである佐藤優氏と解説の天才である池上彰氏の対話形式で進んでいく、チェックするべき媒体と情報の読み方。最後に70の極意と紹介された新聞・雑誌・ネット・書籍に関する情報が一覧されている点は実践に移しやすくて実用的。

 今回は地方紙の読み方がとても面白かった。地方独特の情報があるだろう、というのは当然のことだけど、日露関係が動くときは北海道新聞に情報が流れるとか、共同通信の情報がそのまま流れるとか。それにしても、共同通信が社説参考まで提供しているとは驚いた。

 そして、衝撃を受けたのは『50年前のカッパ・ブックスが、いまの岩波現代文庫のレベルという言い方もできる』という一文。これは加藤周一氏の『読書術』が当時はカッパ・ブックスから、今は岩波現代文庫に収録されていることを指しているのだけど、昔はエンターテインメントだったものが今はやや難易度の高い読み物になっていると。ときどき実家の書斎にある本を読むと字も小さいし漢字も多く読みにくく感じてしまうけれど、そういうことなのか。それから、通俗化に関するお二方の意見も興味深い。ただ平易に書かれているのではなく、背景にある知識や理解が重要というのは、昨日読んだ調査報道での『100取材して10を書け。10しかわからなければ1しか書くな』に通じるものを感じる。

 また、本書ではビジネスパーソン向けということが意識されているので、地理や歴史の教養的な部分を手っ取り早く学ぶための読書も参考になる。教科書に戻るというのは色々な人が提唱しているけれど、地理A・歴史Aといった進学を前提としない高校生向けの教科書はあまり言われていないように思う。

 教養の基礎力という点では、外国人と話すには聖書を読まなくては、ダンテを読まなくては、といったものがいくつかあるけれど、日本を語るには漱石ということなので、今年はいくつか再読してみたいところ。

 

騙されてたまるか 調査報道の裏側

 足利事件、桶川ストーカー事件で真実に向かい合ってきたジャーナリストが、調査報道について語る。他の著書のサマリーのような一冊でもあるけれど、だからこそ調査報道とは、という部分にフォーカスできているように思う。どの案件でも、リスクを取りながら取材を行い、真実に迫る。その中で思い込みは持たず、すべての情報は裏を確認する。別の媒体でも『消極証拠を見逃さないための白くする取材』の重要性が語られているけれど、やっぱり『ここまでやったから言える』と自信を持てる状況にしないと、日本テレビや文春のような大きな看板を守りつつ衝撃的な情報を継続的に発信することはできないのだろう。

www.bengo4.com

 そして、最期のまとめにあった『100取材して10を書け。10しかわからなければ1しか書くな』という言葉は、とても印象に残った。私も報道ではないけれど、調査に関する仕事に長く関与していて、『1000枚の報告書を作ることは何の価値も生まない。それを10枚に凝縮して初めて価値がある』と尊敬する上司が言い続けるのを見てきた。価値のある情報、意義のある情報の背景には、大量のそれを裏付ける情報が必要になる。時には執念を伴うような調査が必要。

騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

騙されてたまるか 調査報道の裏側 (新潮新書)

 

  

権力に迫る「調査報道」 原発事故、パナマ文書、日米安保をどう報じたか

権力に迫る「調査報道」 原発事故、パナマ文書、日米安保をどう報じたか

 

  

調査報道がジャーナリズムを変える

調査報道がジャーナリズムを変える

 

 

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

 レクチャーをきっかけに大阪維新の会に呼ばれ、橋本市長の元で改革を推進することになった社会保障関係の学者が特別顧問として行政の世界に入り込み、誰もが知る『あいりん地区』 の改革を実地で行った記録。貧困問題にそれほど強い関心がなくても、大阪市という巨大な地方自治体における課題解決のプロセスは興味深いかもしれない。

 政治関係者でも行政関係者でもない大学教授ということで、利害関係がないせいか、あらゆる関係者に対して中立的な印象をもって事に当たっている様子が見受けられ、とても読み進めやすい。一定の成功を収めて恨み節を出版する必要もないから、かもしれない。

 貧困をなくすことは簡単なことではないけれど、それ以上に行政の世界で何かを進めるということは難しい。本書でも、住民の理解を得るための徹底した情報公開、対話や役所の巻き込み(役所間の位置付けも含め)といったところに非常に注意を払って働きかけたことがよくわかる。本書を読んで思ったのは、結局は人が世界を動かすということ。誠意をもって事に当たる。筋の通った思いがあれば、人は集まるし動く。役所にしたって、縦割り、セクショナリズムといった課題はあるけれど、それに不平不満を述べても始まらない。様々な課題があるとはいえ、個別の職員は大半が地域を良くしたいと思って働いているのだから、協力しやすい下地を作れば協力してくれる。

 それにしても、熱い一冊だった。厚みもあるけれど、一気に読めてしまう。

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

経済学者 日本の最貧困地域に挑む

 

 

社会保障亡国論 (講談社現代新書)

社会保障亡国論 (講談社現代新書)

 

 

逢えない夜を、数えてみても

 ピアノの調律師と自動車の整備士のカップル。とても良い関係でありつつ、主人公は中年男性にも心惹かれ、という良くありそうな始まりだけど、後半の展開は予想を裏切られ、面白く読み進めた。最期の結論も少し驚いた。男女どちらの立場に立ってみても、その判断は自分だったらできないなと思うけれど、だからこそ読んでよかった一冊。

 随所に差し挟まれるこだわりの車や靴に超高価なコーヒーといったアイテムがおしゃれな雰囲気を醸し出す一方で、甘糟りり子さんの文章は全体的に良い感じの湿度を感じる。官能的というか。読むまでに少し熟成させてしまったけれど、書中に登場するブランドのブティックで行われていたタイアップイベントのトークショーで、LEON創刊に参画していた編集者が印象に残った個所を朗読しながら赤面していたことを思い出す。

逢えない夜を、数えてみても

逢えない夜を、数えてみても

 

 

文庫X 殺人犯はそこにいる

 盛岡の書店からはじまった謎の本「文庫X」のブーム。都内の書店でも、手書きのカバーを付けたバージョンが平積みに。といっても、こちらでは手書きカバーの上に書名と著者名が書かれてはいるのだけど。

 この本は、栃木と群馬の県境で連続して起きた女児殺害事件を追うジャーナリストの記録であり、告発である。警察の捜査における不手際、杜撰な科学捜査、警察公表情報による印象操作、記者クラブ報道の制約といったものが描かれる。もちろん、独自調査による情報なので、すべてを信じるのも危険かとは思うものの、DNA型鑑定の精度や公表情報の矛盾といったところは確からしく思う。

 読み進めると、冤罪事件の関係者に対しては当事者のように苛立つし、加害者と目された人には申し訳ないような気になる。そして、真犯人に対しても腹立たしい思いになった。他方で、スクープの打ち方や報道関係者間のギブアンドテイクなど、興味深い情報も並ぶ。

 読後に感じたのは、情報の怖さ。警察が情報を渡せば裏付けがなくても報道され、世間はそれを事実と信じてしまう。冤罪で犯罪者になってしまえば、名誉回復も難しい。釈放されても、「彼が真犯人だよ」と言い続ける人もいる。本書の主題である連続殺人事件の真犯人を著者が特定できていると言いつつ明かさない理由も、情報の一人歩きへの懸念と書いてあるけれど、「本に書いてあるから彼が犯人だ」と世間が受け取り勝手な制裁をしようとする可能性を考えると本当に怖い。著者は自信を持っている容疑者でも、確定ではないわけだし。

 しかし、冤罪であったと認められた以上、真犯人は別にいて、「殺人者はそこにいる」というのは当たり前の帰結ではあるけれど、ぞっとする。書店員が絶対に手に取ってほしい、読んでほしい、と願った気持ちは私もよくわかる。私も少しでも多くの人に読んでほしいと思う一冊。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 

  

桶川ストーカー殺人事件―遺言―

桶川ストーカー殺人事件―遺言―