CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

Diet Land

 これもまたAmazon primeで。タイトル画でDIET LANDのネオンサインのTだけライトが消えているのが、少し暗示的?Season 1となっているけれど、Season 2は見送られた模様。少し過激すぎたのか、あまり人気が出なかった様子。そのせいで、何となくドラマのメッセージが理解しがたいところあり。ただ、瞬間的に爽快な気持ちになれる人もいるかもしれない。

 本作は、人気雑誌の編集長のゴーストを務めるライターが主人公。年齢は不詳だけど、太っていて、あまりマスコミ業界で活躍するタイプのルックスではない。一方で、ゴーストの対象となっている編集長は、スリムでばっちりメイクの、いかにもなタイプ。才能はあっても、十分に活躍できているとは言えない主人公は、ダイエットもうまくはいかない。派手なことのない日常を送り続けるが、ある出会いをきっかけに、性犯罪者や女性を搾取する男性に対するテロ活動をするグループに巻き込まれ、惹かれ、参加する。このテロ活動は、性犯罪の被害者やその遺族による復讐。

 暴力による復讐というのは、決して良いものではないけれど、私も男性からの嫌がらせを頻繁に受けるし暴力が目的と思われる付きまといを受けることも多いので、観ていてとても苦しくなった。受けた被害に見合うような処分を加害者は受けることは滅多にない、というかほとんど不問に付されている。暴力による復讐をしても何もなかったことにはできないし、自分の気持ちが晴れることもないだろう。でも、相手に何か代償を払わせることができるなら、と。ただ、実際に自分ができるかというと難しいと思う。このドラマの中でも、プラムだって気持ちが行ったり来たりブレているし、彼女をリクルートした集団でも一枚岩ではない。まあ、どんな運動だって誰もが狂信的に同じゴールを目指して一直線に進むことはないけれど、そこのリアリティによってドラマが収束しにくくなっているように思う。

 なお、プラムは男性と戦う集団に入ることでありのままの自分を好きになる流れかと思いきや、そうでもなさそう。太っていて足手まといと言われてしまうし。この後、どんな成長を用意する予定だったのだろう…。

ジオラマの外へ

ジオラマの外へ

  • メディア: Prime Video
 

 

Home coming/ホームカミング

 Amazon prime videoのオリジナルコンテンツ。製薬メーカーにバックアップされているらしい、帰還兵のリハビリ施設が舞台。主人公であるカウンセラー ハイディの数年後と、施設での出来事を行き来する構成だが、物理的な舞台はハイディがカウンセラーとして働くリハビリ施設、数年後にウェイトレスとして勤務するダイナー、そして彼女の実家が中心のミニマムなつくり。また、物語の進行は静か。

 このリハビリ施設は、新薬を実験する施設を兼ねており、その狙いは・・・というスリラー。まあ、それほど予想外な展開があるわけではないけれど、いろいろと考えさせられる話でもある。ベトナム戦争で兵士のトラウマ、PTSDが注目され始め、治療の必要性が認識されたといわれる。そして、以降も常に戦争を続ける軍事大国アメリカでは、イラクアフガニスタンからの帰還兵の自殺や精神不調が今も社会問題である。ただ、ベトナム戦争のころは、いつか戦争が終わる(アメリカの勝利で)、という前提があったのではないかと思う。一方で、今の戦争は終わりがない可能性を前提としているのではないか、とも。だから、兵士を使い捨てにしても戦争が終わって不要になる時代と違って、帰還兵は治療して終わりではない。そこで、このドラマで描かれる新薬実験に「ありそうな話」という感じが生まれるのかもしれない。もちろんフィクションではあるけれど、実際の出来事に触れるドラマである以上、荒唐無稽な話にはなりにくく、現実と地続きで「ありそうな話」である分、入り込みやすいし、アメリカの抱える課題について、より考える機会にもなる。

 シーズン2の配信も始まったようで、そちらも楽しみ。

規則

規則

  • メディア: Prime Video
 

 

パイナップル

パイナップル

  • メディア: Prime Video
 

 

謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア/恋するソマリア

 一気に続けて読んでしまう。『謎の独立国家~』が先で、続編が『恋するソマリア』という時系列はあるけれど、どちらから読んでも楽しめるはず。ただ、やっぱり時系列に並んだほうが読みやすいのは確か。

 『謎の独立国家~』を読めば、ソマリランドへの行き方はわかる。そして、一冊読み終わるころには、思っていたような無法地帯ではないことも。それでも、やっぱり自分では中々足を運べない遠い国であるソマリランド。そもそも、ソマリランドは世界的にも承認されておらず、日本とも国交がないため、どんなアクセスの仕方を正規ルートと呼んで良いかもわからないような目的地だ。だからこそ、言語や嗜好品(カートと呼ばれる覚醒作用のある植物)を含め現地の文化を吸収しながら現地の社会と交流し、誰も見ていないものを見て、伝えてくれる作家の存在はありがたい。

 本書では、ソマリランドプントランドソマリア(このほかにも国らしきものはいくつかある様子)における混乱がなぜ起きているか、英国とイタリアの植民地政策や元々の氏族の関係・バランス、国際社会に対するスタンスなど、様々な方向から分析がされていて、謎の国(私は読むまでソマリアしか知らなかった)が急に色彩を伴うイメージとして自分の中で存在感を増し、また、ソマリランドの平和を構築するプロセスは非常に感銘を受けた。不思議な感じだけど、お金儲けが好きな民族というのは、平和に向いているのかもしれない。功利を考えれば、長期にわたって戦争をするメリットというのはないわけで、どこかで落としどころはつける。元々、この地域には落としどころのつけ方も決まりとして存在していて、機能していたという。

 『恋するソマリア』でも、日本のソマリア人、現地メディアの置かれる状況とメディアにかかわる人々について、現地の家庭の風景・おもてなし、など、いろいろな方向からソマリアを知ることができる。今もソマリア全土としては危険な状況であり、汚職も蔓延っており(Corruption Perceptions Indexでも最下位https://www.transparency.org/en/cpi/2019/results)、という環境下での報道が困難であることは容易に想像つくものの、働く人たちの苦悩については中々語られるものでもなく、これは中に入って一緒にカートを食べながら聞いた話は非常に価値があるものだと思う。また、度々の送金などのディアスポラ活動の成果かもしれないけれど。

 ところで、ソマリアイスラム教の地域であり、女子割礼も未だ残るらしい、女性にとっては更に厳しい環境。本書では、著者が男性ということもあってか、あまり女性の置かれる状況は描かれない。そんな中、メディアの支局長としてリーダーを務める若いジャーナリストのハムディは異色であり、希望。ソマリアシリーズの続編で成長と成功を是非見たい。

 

愛してるよ、愛してるぜ

 山田詠美と阿部譲二と言えば、山田詠美氏がデビューした当時に、恋人との問題を抱えていて対談をキャンセルしたところ、後日、花束と優しいメッセージを届けたエピソードがすぐに思い出される。以来、とても仲の良い様子はエッセイ等からうかがえる。この対談は長年の友情をはぐくんだ後の二人が互いの配偶者も時に登場させつつ悩み相談にこたえるというもの。

 前述のエピソードからわかる通り、女性にだけなのかもしれないけれど優しくて情のある阿部譲二氏と、「つみびと」で弱者に対する優しさと冷静な視線を見せた山田詠美氏であるけれど、自分の意志でアウトローな人生を若い時分に送った、突き抜けた人たちでもあるわけで、悩み相談に対して少し突き放しつつも愛のある回答をしている。とはいえ、悩み相談以外の対談が分量としては多い。まあ、二人がどんな回答をしそうか、過去の著作を読んでいる者には簡単に想像ができるもので、よくこの二人に相談しようと考えたものだ(本当の相談が寄せられているとしたら)、という感じなので、致し方ないのかもしれない。脱線が面白いから良いのではないか、と。ただ、山田詠美氏が聞き役に回りがちなので、エイミー節を目当てで読むと少し効用が不足するかもしれない。過去を振り返りつつ話す阿部譲二氏に対し、二度目の結婚前後で恋愛関連の話題が現在進行形の山田詠美氏が突っ込みを入れながらも良い聞き役として面白いエピソードを引き出している印象。しかし、とても聞き上手。

 

愛してるよ、愛してるぜ (中公文庫 や 65-2)
 

 

歴史とは靴である 17歳の特別教室

 17歳の特別教室と副題がついてはいるけれど、大人が読んでも面白い。『無私の日本人』『武士の家計簿』など、著書が映画になるような歴史学者を呼んで特別教室とは、ちょっとうらやましいな。この授業を受ける生徒もしっかりしているので、質問がまた興味深い。高校生時代の私が受けても猫に小判の講義だけれども、この高校生たちには、非常に実りのある良い時間になっているはず。

 歴史は嗜好品というよりは、実用品であると。非常に含蓄のある言葉。いくつかの対話を読んで思ったのは、歴史を学んで何かに活かす、という概念的な話だけでなく、関東大震災の時に津波が達した高さを知っていると自分の居場所の安全性がわかる、とか、世界のトイレの歴史を知っていたら建築デザイナーとして強いだろう、とか。

 また、著者の大学の入り直しのくだりも興味深い。大学の制度に関する話も高校生には実利的なところがあるかもしれないが、個人的に興味を持ったのが入りなおす大学の決め手となった研究。大学の研究者は面白い研究をしているもので、「江戸時代の平均結婚年齢の研究」というのがあるらしい。歴史人口学という名前はこの本で初めて知ったので、少し勉強してみようと思う。

歴史とは靴である 17歳の特別教室

歴史とは靴である 17歳の特別教室

  • 作者:磯田 道史
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
日本史の探偵手帳 (文春文庫)

日本史の探偵手帳 (文春文庫)

 

 

私にふさわしいホテル

 最近、気に入って毎週のように通っている日比谷シャンテ3階の書店HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEにて、『山の上ホテル+帝国ホテル+カンヅメ』と書かれた3題噺の文庫。手に取ってみると、割と好きだけど全作追い切れてはいない柚木麻子氏の未読の一冊。思わず購入。

 読み始めてみると、BUTTERナイルパーチの女子会に比べると、軽め。と思いきや、主人公の業の深さが凄まじく、終盤に披露される執念というか情念は他では見られないもの。本作は、作家志望で新人賞の受賞経験のあるアルバイトをしている女性が、文壇でのし上がっていく過程を描いたもので、読書好きなら誰もが知っている山の上ホテルに自主的にカンヅメになり創作に励もうとする、主人公にとって恒例のイベントで宿泊した際の偶然から始まる。相互に影響を与え合って自分の意向を通そうとする登場人物たちは人間の怖さを思い起こさせつつも、本当の悪人はいないというところが、読後に暗い気持ちを残さない。

 文学賞にまつわる政治というのは、最近はよく聞く話で、ソーシャルネットワーキングの発達によって、関係者や不遇な人たちが暴露する面もあるもかもしれない。なので、文中に登場する芸能人の出来レースや選考委員の好悪に左右される運命というのも、ああ、と思わせられる。そんな現実的なところと、主人公の機転や「そこまでやる?」という様々な行動の非現実的なところが、素晴らしいバランスで配置されている。一気に読んでしまう。

 しかし、最後の一幕。ここまでの執念を思いつく作者はどんな人なんだろう。本書の主人公が不思議な関係を築く作家から、バックグラウンドが見えない、と言われていたけれど、それは作者に通じるものがあるかもしれない。 

私にふさわしいホテル (新潮文庫)

私にふさわしいホテル (新潮文庫)

  • 作者:柚木 麻子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫
 

  

山の上ホテル物語 (白水uブックス)

山の上ホテル物語 (白水uブックス)

 

 

山の上ホテルの流儀

山の上ホテルの流儀

 

 

ハスラーズ/HUSTLERS

ハスラーズ(字幕版)

ハスラーズ(字幕版)

  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: Prime Video
 

  悪い人間が被害にあう犯罪映画は、犯罪者がヒーローになる。本作はジェニファー・ロペスが演じるトップダンサーであるラモーナが、金融危機で景気の悪くなったウォール街の残党を相手に、ぼったくりでお金をだまし取るチームを作り、荒稼ぎをする映画。悪いことをしなければ大金を手に入れないウォール街で、お金をつかんだ人々は他人(特にお金のない人)をだました罪を償うこともなくのうのうと生き続けている。それに対する怒りをぶつけるラモーナには、多くの人が共感してしまうだろう。特に、主人公が昼間の仕事に就こうとするも「未経験」を理由に不採用続きだったり、ラモーナがダンサー稼業が厳しくなった当初にOLD NAVYでも働いて、子育てとの両立を含め厳しい現実に苦しむ姿も見せていたり。人生はとてもつらい。ほかのメンバーもそれぞれに事情があって、だからこそ、苦労知らずの小悪党を罠にはめて破滅させる姿は痛快だ。中には、同情を誘う被害者も混じっていて、それがちょっとしたチーム内のささくれになってしまうこともあるけれど。

 ストーリーも良いけれど、この映画は、映像も美しく、音楽がまた最高。何よりもジェニファー・ロペスがかっこよすぎて、肩入れせずにはいられない。チームを率いるリーダーぶりが素晴らしく、何と言っても未だに男性優位なウォール街に対抗する女性のチームの結束、友情が心を打つ。ジャーナリストにバッグの中身を見せる場面、この愛情。こんなチームが作れたら、最高だ。

 女同士を分断させて喜ぶ文化もあるけれど、最近はシスターフッドを描く映画や小説も多く、観たり読んだりして前向きな気持ちになれるものが多い。

サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 (宝島社新書 254)

サブプライム問題とは何か アメリカ帝国の終焉 (宝島社新書 254)

  • 作者:春山 昇華
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2007/11/09
  • メディア: 新書