CoffeeAndBooks's 読書日記

日々の読書を記録しています

歴史をつくった洋菓子たちーキリスト教、シェイクスピアからナポレオンまで

 紹介される洋菓子は、ガトー・デ・ロワ、クレープ、アップルパイ、エクレール、ヴォローヴァン、ザッハトルテ、マドレーヌ、ブリオシュ、パンプキン・パイ、サヴァラン、ビュッシュ・ド・ノエル、パン・デビス、タルト・タタン、ビスケット。フランスを代表する菓子もあれば、アメリカ人のソウルフードとも言える菓子もあり、普段の生活で目にする洋菓子の多くに触れている。

 菓子の出自から、名前の起源、そして形状に関するあれこれ(マドレーヌはなぜ貝の形なのか、など)について、様々なエピソードが紹介されていてとても興味深い。読んでいると、重たいバターと砂糖たっぷりのケーキが食べたくなってくる。

 読んでいて面白いのは、カレームというパティシエの存在。さまざまな洋菓子を生み出したとされつつ、年表に照らしてみるとどうも不自然とのこと。やたらと伝承が結びついてしまう人物というのはどこの国にもいるけれど、カレームは1800年代の人物ということもあって、考証がしやすい様子。しかし、レシピの本当のオリジナルを特定することが難しいということもよくわかる。なんとなくやってみたり、代用したらおいしかったり、そんなことを繰り返して洗練されて、どこかで権威が認めたり世の中で人気になったりしたところで、名前が広がる。有名なパティシエが生み出した菓子ならわかりやすいけど、郷土料理から発展する場合は起源などわからない。なので、結局は諸説ありになってしまうことも多々あるもの。それでも、こんな謂れのある菓子で、なんてお話をしながら楽しむと、より美味しいのも事実。

 

   

BRUTUS(ブルータス) 2018年 11月1日号 No.880 [洋菓子好き。] [雑誌]

BRUTUS(ブルータス) 2018年 11月1日号 No.880 [洋菓子好き。] [雑誌]

 

 

きのう何食べた?

 雑誌で読むと「そこそこ面白いけど印象には残らない」と思っていた。ところが、1巻からまとめて読んでみると、何度読み返しても違う味わいがあって、すっかりはまってしまった。

 基本的には1話完結で、主人公のゲイカップルのちょっとした日常の出来事と食事風景が淡々と描かれるもの。であるけれど、同性愛に対する世間の目に少し悩む姿とか、男女の伝統的な性別役割みたいなものに反発する気持ちであったり、そういったものが織り交ぜられていて、いろいろと考えさせられる。男女の伝統的な性別役割に真っ向から反発していく主張はないけれど、かわいらしい奥さんからのDV被害者がクライアントになった際の主人公(町の弁護士)の対応だったり、母親から「なんだか女の子みたい」と微妙な態度をとられる場面だったり、そういったシーンから、読者に考えさせるのが上手いなと思う。大奥では男女逆転の江戸時代から人間の本質的なものを描いていくアプローチだとすると、こちらはほのぼのした日常から世間に対してちょっとしたチャレンジをしている印象。

 なお、作者は、いわゆるボーイズラブを中心に作品を発表してきた方だけど、そちら系のシーンはモーニングで連載ということあってなし。そして料理のレシピもとても参考になる。

 

レベッカ

youtu.be

 シアタークリエ×涼風真世×山口祐一郎、貴婦人の訪問(貴婦人の訪問 - CoffeeAndBooks's 読書日記)を思い出す。チケットを取ったのは、もちろん涼風真世がダンヴァース夫人を演じる回。しかし、保坂知寿のダンヴァース夫人も見たかった・・・全く違う魅力があったはず。

 涼風真世はさすがの歌、貫禄。男役的な声とも違う低音が素晴らしい。盛り上がるところでも急な裏声がないのがすごい。そして、狂気を感じさせるレベッカへの愛情を見せるダンヴァース夫人を涼風真世が演じると、最後まで顔の見えないレベッカの姿も涼風真世で想像してしまい、ますます妖しい愛憎を感じてしまう。ダンヴァース夫人は、レベッカに自分を投影してうっとりしていたのかもしれない。レベッカを誇らしく陶然としていたら、急死。これはひどい喪失感を与えるはず。そして、レベッカの夫はレベッカとは比較にならないような女の子を後釜に迎えようとしている状況は許しがたいものだろう。でも、その死の真相は、ダンヴァース夫人にとってある意味ひどく残酷。ただ、ちょっと火事のシーンに続く感情の変化がわかりにくかった。もっと、じめっとした終わり方をすると思っていたので、余計にかも。でも、全体を通じた満足感は高め。

 ちなみに、「わたし」は桜井玲香の回だった。声がとてもきれい。見た目も可憐だし、やや小柄なので元男役の涼風真世と並ぶと余計にかわいらしさが際立つ。でも、実はこの手の女の子が、芯は強くて一番コワイタイプだったりする。そのあたりの伝わり方がいい感じ。

レベッカ [DVD]

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レベッカ (上) (新潮文庫)

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Fairy

Fairy

 

 

ビジネスファッションルール 武器としての服装術

 ファッションについては人から注意を受ける機会が少なく、特に女性の場合は自由度が高いと思っている人も多いので、余計に難しい。また、日本ではあまり職業に応じた服装という意識が不足しているところがあるかもしれない。たとえば、日本版は少し見ただけだけど、同じ弁護士を主役に据えても、米国ドラマの"Good wife"と日本版の"Good wife"を比較すると、日本版はかなり甘めに見えた。

 ただ、許容されるとしても、甘めのファッションはやっぱり女性を「女の子」に見せてしまうことがあるので、注意が必要。オフィスで話しかけやすい雰囲気を醸し出すべき職種と、タフな交渉の前面に出す職種では服装が違う。部下よりも安っぽい服を着た上司は尊敬されないかもしれない。この『ビジネスファッションルール 武器としての服装術』は、トレンドを理解するためのファッション雑誌から、どうやって取捨選択するか、の視点を養うのに役立ちそうな一冊。さすが、キャリア志向の女性向けの書籍を多く発行する出版社。

ビジネスファッションルール 武器としての服装術

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[改訂新版]男が上がる! 外見力

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大奥

 奇病が元で男性の数が激減した江戸時代の日本を舞台とする、時代物のSF。Kindle Unlimitedで1巻~3巻が無料で読めるので、ついついダウンロードしたら続きが気になって一気に全巻購入・読破してしまった。

 男性が激減したことで、江戸幕府は女性が将軍になり、男性が集められ大奥に入ることに。家光から始まる男女逆転の江戸幕府は、設定は荒唐無稽であるけれど、実際の歴史上の人物や出来事も巧妙に取り入れつつ、破綻なし。完全にヒールの治済を除けば、それぞれの人物が魅力的であり、いろいろな苦悩も頷けるものであり、ついつい引き込まれる。

 制度の導入期の男性の苦難はバリバリ働いてきた女性が家庭のためスローダウンする際の悩みに似ていたり、性的暴力により黙らせようとする敵と相対する平賀源内の姿は女性が何かをするときについ慎重になる背景なのかなと思ったり。そして、姑の奸計で子を奪われた正室と側室が結託したことによって女性不信になる家斉もなんだか社内政治で見る光景みたいだな、とも思う。

 まだまだ続くようで、続きが楽しみ。これはやっぱり大政奉還を機に終焉を迎えるのだろうか。早く完結するところが読みたいけれど、もっと長く楽しみたい。 

大奥 16 (ヤングアニマルコミックス)

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大奥 1 (ジェッツコミックス)

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大奥 <男女逆転>豪華版DVD 【初回限定生産】 

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天智と天武

 壬申の乱を題材にした小説や漫画は多いけれど、蘇我入鹿が意外な人物に結びついていく『天智と天武』は初めて触れる歴史解釈かもしれない。史実といっても限定的な情報、それも実際の出来事が起きた直後の権力者によって残される情報に過ぎないので、いろいろな解釈が可能。特に、敵も味方も身内のこの時代、日本書紀編纂時の権力者とその周辺にとって、多方面に気を使ったせいで一部に矛盾や不詳が出てくることもあるのだろう。

 一般的には父母が同じとされる天智天皇天武天皇であるけれど、この作品では異父兄弟として描かれる。特に天武天皇は謎の多い人物らしく、某国の王族という説や天智天皇とは順番が逆(天武天皇が兄)という説など、いろいろな説があるけれど、この作品では蘇我入鹿を父とし、中大兄皇子を父の敵として見ている立場。そして、中臣鎌足が生まれる背景も、当時の国際情勢を反映したものとなっており、非常に興味深い。朝鮮出兵もこれにより、とても複雑なものに。

 また、この作品は、敵味方の間に男性同士の恋愛感情を織り交ぜてきている点も新しいかもしれない。『天上の虹』でも一瞬、大海人皇子柿本人麻呂だったかのそれらしい関係が描かれていたけれど、そちらは、あまり本筋には影響しないところだったと記憶している。『天智と天武』はどちらかというと、その感情が様々な出来事の背景になっている。実際に当時の恋愛事情がどうなのか、私にはその知識がないけれど、ただ、戦国時代の武将同士の関係にしても、任侠映画の世界にしても、誰かのために命を懸けるという関係性を成り立たせる感情というのは、少し不合理なところがあって、性的なものであるかどうかは別にすると恋愛感情に近いのかもしれない。自分より優れた相手に対する嫉妬で人を殺すという感情は共感できなくても、手に入らない相手を自分のものにしたくて、という感情は少しわかるような気もするし。

  

  

天上の虹(1) (講談社漫画文庫)

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幻の女

 翻訳の例として挙げられることも多い書き出し”The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour.” (夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。)はよく覚えているし、結末に驚いた記憶はあるのに、細部が思い出しにくい古典的名作。思い出して再読。

 派手な目立つ女性をナンパして食事と劇場に行ったところ、帰宅すると妻が殺されている。第一発見者となってしまった主人公は容疑者候補としては最有力。どうにもアリバイを証明できず、遠路はるばるやってきた親友がにわか探偵としてアリバイの証明に尽力するが、なかなかアリバイの証明となる女性が見つけられない。親友は必死に探し、ついには糸口をつかむかに見えるけれど・・・。

 最後に発覚する真相が意外過ぎて驚くものの、よく考えるとミステリーのお作法通りでもある。さすが、読み続けられる古典はよくできている。

 そして、古い時代の外国が舞台なのに、情景が浮かんでくる描写の素晴らしさ。記述は落ち着いたものである一方、段々と時間がなくなってくる焦りのようなものも伝わってくるリズム。新訳を読んだけど、これは翻訳もよいのだろうと思う。

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))

幻の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 9-1))